コラムのデパート 秀コラム

第836話 ■訓練の前提

 9月2日の深夜(正しくは3日の午前)、NHK総合で地震対策番組なるものを放送していた。防災の日の翌日であるのと、東海地震の危険地域拡大という切り口で構成されていた。これまで東海地震の危険地域としては静岡県がそのほとんどであったが、今回この地域が大きく拡大され、名古屋市までも含まれることとなった。都市での地震発生時の最大の問題は帰宅難民らしい。名古屋市の場合でその予測値はおよそ20万人。実際の大型地震の直前になった状態では遅いため、緊急判定会議が招集された段階で人々に帰宅を促すような対応ができるように検討をしているらしい。

 続いて紹介されたのはヘリコプターで重傷患者を東京や大阪などの医療施設に搬送する計画の訓練の様子だった。各病院からの搬送要請を静岡県庁が取りまとめ、出動の判断やヘリの手配を行う。県庁側のインクジェット方式のファクスからニョロニョロと吐き出されるヘリの出動要請の連絡用紙を見ながら、「いざ本番のときのための紙はちゃんとストックされているのだろうか?、紙はなんとかなるにしても、インクの方の買い置きは十分だろうか?」とそんなことの方に気が回ってしまう。

 訓練の様子はどれも真剣である。ヘリの出動の判断をめぐって担当者が苛立ち、声を荒げるシーンもあった。ある病院では重傷者の搬送依頼をしてから結果が届くまでにトラブルもあり、一時間を要した。その病院の担当者は「搬送が無理なら自分達で処理する。搬送可能ならその分を他の患者さんに掛かれる。ですから、時間が掛かることは困る」といった趣旨のことを話していた。また、そのヘリでは一度に一人の患者しか運べないが自衛隊の物資輸送ヘリであれば定員は20名以上。飛行距離にしても倍以上飛べるということで、その訓練も行われていた。しかし、自衛隊ヘリは災害時には救援物資の輸送を行うことが目的となるため、重傷者の輸送が実際に行えるかというと必ずしもそうではないらしい。

 しかし、そもそもの前提がおかしいのではないかと思えてきた。病院と県庁でのヘリの手配のやり取りについてである。大地震が発生したときにファクスが使用できるという保証はない。県庁舎や病院、それに電話局は堅牢であっても、途中で電話線が切れてしまえば電話は通じない。それに緊急時には人々が電話に殺到し、交換機はパンクしてしまっているはず。もちろん、電話線が生きていたとしても停電していてはファクスは動かない。むしろ、電話やファクスは使用できないという前提で準備をしなければ意味がない。真剣であればあるほどこんな点を見落としているのが悲しい。

(秀)

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