夜のニュースショーを見ながら、ふと思う。ニュースショーとは、ニュースステーションやニュース23などのことである。関係者と言うか、そのことに詳しい人が顔を隠してVTRで登場することがある。その映像にはその人の胸から下が映っていて、音声も変えてある。そして、音声が聞き取りにくいからか、最近はテロップが出る。「彼は本物か?」と私は疑ってみる。
数日前は亡命した元北朝鮮の工作員という人が、拉致された日本人が収容されていたとされる「招待所」と呼ばれる場所について話していた。もちろん言葉は朝鮮語で日本語のテロップが出る。ホワイトボードにはその見取り図を書きながら一生懸命話している。一部、彼が日本人らしい人物を見たとか、日本語の歌を聞いたと話しているが、それ以外は、彼が直接的にその招待所に関わっていたわけでないため、それに関わっていた知人から聞いた話というのがそのほとんどであった。もちろん顔は出ていない。名前を「Kさん」と紹介していた。「キム」さんかな?。
テレビでこのVTRを見ていた人の多くはその内容を信じているだろうし、彼の話について「本当にそうかな?」と思う人はいるかもしれないが、まさか彼が偽者では?、と疑う視聴者はほとんどいないだろう。現に彼が偽者である証拠などないが、テレビを見ている我々が彼を本物と認める証拠も提示されていない。ただ「テレビだから本物」と世の多くの人が無意識のうちにそう思い込まされているに過ぎない。
本当に元工作員に接触できて取材ができたにしても、いくら顔が出ないからといっても、知っている人が見れば一目瞭然である。声質が変わっていても話し方の癖は残っている。テレビに出るには危険すぎる。しかし、番組として誰かが語っている画が欲しかったらどうするか?。「どうせテレビを見てる人には本物かどうかわからないし、言っていることは本当なのだから」と。もちろんこれは私の妄想の域を出ていない。やろうと思えば、「北朝鮮(元)幹部のインタビュー」というのも顔を隠した映像として作ることは容易い。
先日の元工作員の例では、そのVTRの後、番組は何のフォローもなく次の話題へと移って行った。それまでの元工作員の話は番組では真実とも嘘とも触れたくないし、「ただ数字(視聴率)が稼げるかと思って流しました」、と言わんばかりである。よってその真偽については番組として責任を持たないということだろう。彼が本物かどうかも明らかにできないような状態で、番組が責任を負わないような情報を一方的に垂れ流すというやり方である。だったらいっそのこと、お天気コーナーも顔を伏せ、音声も変えられた、本物かどうだかも分からない気象予報士が登場して天気予想を伝えるのが良かろう。それが妄想ニュースだ。
(秀)