定例の閣議は毎週木曜日の午前中に首相官邸で行われている。国会会期中であるため、一刻も早くこのような儀礼的な会議は終わらせて、国会対策のための準備に取り掛かりたいと誰もが思っていただろうが、この日の閣議は議論百出で予定の時刻が過ぎても会議が終わる気配はなかった。表向き、閣議が全会一致であることから考えれば、この閣議は前代未聞。内閣史上初の騒ぎであろう。
「ところでこの『うるう曜日』というのは何なんだね」。混乱は最後の議案に差し掛かったときの総理の言葉で始まった。「はい、うるう年、いや、2月29日はうるう日というのが正しいですから、『うるう日のある年』と言うべきでしょうが、実際の天体的に見た時間と時計やカレンダーで測っている時間に差があるため、それを調整するもので、あまり知られていませんが『うるう秒』もこれまで何度か実施されています」。内閣府の官房長がいかにもエリート官僚らしい、鼻についた声で説明した。「そんなことは私だって知っている。この『うるう曜日』が何かを聞いているんだよ」。
「なんで天体の時間に曜日が関係あるのかしら?。曜日なんて人間の都合で勝手に作ったもんでしょう」。そう言い終わると、国土交通大臣の目が眼鏡の奥で光った。「いったい、こんなこと言い出したのは誰なんだ?」。「先週、アメリカが外交ルートを通じて伝えてきました」。「で?」。「そもそもはカトリックの団体がこの『うるう曜日』の導入を唱えているようです。旧約聖書の冒頭に出てくる、創造主である神が7日目に休んだ日が日曜日となっているわけですが、その日から日数を計算すると、現在のカレンダーに曜日のズレが生じているという話だそうです」。
「そもそも、その日がいつだったか、どうやってわかるってんだ?、ねえ」。「やはり私は、この宗教的な側面から判断して、対イスラム教圏に向けた嫌がらせの政策ではないかと考えます」。「それでアメリカはその実施を決めたのか?」。「はい、先程アメリカ大使館には合衆国大統領の名前で実施決定を伝える通達が届いた模様です」。「となると同盟国として日本も従わないわけにはなぁ」。「アメリカは国連にも働き掛けるようです。全世界的な実施も時間の問題かと」。「『時間の問題』とは、君もなかなか上手い洒落を言うねえ」。官房長にそんな気はなかっただろうが、しばし場が和んだ。
<つづく>
●この話はもちろんフィクション
(秀)