今から約20年前、私が会社に入った当時は、パソコンなんて普通の社員が使用するようなものではなく、文章作成にはワープロ専用機を利用していたが、それは部署に1台とかの台数で、共同で使うものだった。表計算ソフトなどないから、ひたすら電卓を叩き、メールもないから、電話かFAXでの連絡、伝達となる。そして、手書きの資料なんてのも結構残っていた。そんな中、私が初めて配属された部署では各自が一人1台のパソコンを使用していた。当時一人1台のパソコンとは何とも先進的な部署だった。
そのパソコンとはキヤノン パーソナルステーション NAVIというもので、パソコンなのに受話器が付いていて、電話も掛けられれば、FAXもできた。電話、FAX、ワープロ付きのパソコンで、おまけにGUIの環境でプログラムのアイコンをタッチパネル触ればソフトが起動できるという代物だった(データの入力はキーボードが必要)。コマンドをキーボードから打ち込んで使用するものがほとんどだった(MacintoshはGUIだったが)、当時のパソコンに比べれば、はるかに使いやすく、だから一人1台という風に誰にでも使えた。実際にまだパソコンも高い時代に、それほど世間に認知されていないパソコンをこんな感じで使用できたのは、それが自社の商品で、私の所属する部署がその販売企画部門だったからでしかないが。
それからNAVIはシリーズで5つの機種を出したが、90年代しばらくしてから生産を終了してしまった。モノクロの画面であったり、CPUやOSが時代に合わせて進化するでもなく、世の多くの人に知られることなく、消えてしまった。モノの良し悪しはさておき、最終的には売れるかどうかの世界である。しかし、未来のパソコンの原型となるべき思想は、はっきりとその中にあった。「きっと将来は使いやすいパソコンを誰もが使って仕事をしているだろうな」、と。生まれてくる時代がちょっと早すぎたようだ。
せめてもの記念にということで、手元に置いておきたくなって、数年前にオークションでこのNAVIを探し出し、最終機種のものを安価で購入することができた。子どもたちに見せると、「これって、インターネットできるの?」と聞く。当時インターネットは存在したかも知れないが、軍事用のネットワークだったはず。「インターネットなんて当時はなかった」と答える。それどころかパソコンをネットワークにつなぐことすら珍しかった。20年ふた昔の話。
(秀)