会社に入った当時の先輩たちが、今や定年退職やその直前の年齢となった。役職定年になった人、子会社への出向となった人。そんな話を遠くの方で聞くし、実際に旧職場での同窓会では、「定年後どうする話」が盛んだった。私の感覚としては、定年まで勤め上げた人はそのまま雇用延長するか、他の会社に再就職するなど、雇われのスタイルを続けることが多い一方、起業するような人は、退職金の割増などを狙って、定年を待たずに会社を辞めるケースが多いようだ。自分は後者のケース。
私がまだ会社勤めをしていた頃、確か今から十年くらい前になると思うが、技術職の某部長が定年後、会社のメール業務で働いていた。メールとは社内所定の封筒に入れて、目的の部署・担当者宛てに書類などを物理的に送るもので、各フロアのポストから回収し、地下のメール室で仕分け。ビル内の部署であれば、それをフロアごとに配達。支店等他の事業所への分は、それぞれの発送先に分ける。支店等から届いた分の仕分け、配達もある。千人以上がいるビルで、そのような業務を子会社に業務委託する形で行なっていた。
小柄なその元部長が台車を押してそれぞれのフロアを日に何度か回ってくる。それほど一緒に仕事をしたことはなかったが、会議の席などで顔を合わせることはあり、お互い顔も名前も知っていた。「おはようございます」、「こんにちは、お疲れ様です」。いつも私の方から声を掛けた。「おう!」「元気にやってるか?」といつもと同じ返事が返ってくる。数日前までスーツにネクタイだった人が、作業着で台車を押している。彼を知らない新入社員などには、メールのおじさんでしかないであろう。
健康のためか(結構、毎日歩く)、会社への恩返しか、このような働き方を選んだ理由はわからない。もしこのような仕事を定年後に選ぶとしたら、別の会社で働くのではなかろうか。ただ、部長として仕事をしてるんだかどうだかわからない時期に比べると、このメールおじさんの方がイキイキとしてたし、私は好きだった。
(秀)