その日、家に帰り着くと家の中の雰囲気が昨日までとは、いや、今朝出掛けたときと比べてちょっと異なっていた。別にこれと言って家具が増えたり、減ったりしているわけではない。よく見ると、棚の上に無造作に重ねられていたものが片付けられている。それだけでなく、家具が壁に固定され、食器棚には扉を固定する金具が付けられている。
「あれー、これどうしたんだ?」。こんなことが妻一人にできるわけもない。
「ああ、それね。便利屋さんに頼んで今日固定してもらったの」
「何でまた急にそんなことまで?」。嫌な予感がした。
「倒れたりすると、やっぱり面倒でしょう。食器も使わないのは明日、実家に送ることにしたわ」。
彼女の勘と言おうか、能力は日増しに研ぎ澄まされていく。今では震度3以上の地震はことごとく予感できるようになってきている。そんなあいつがここまで準備をするというのは大地震が近いということなのだろうか?。
「もうすぐ、でかい地震でも来そうなのか?」。
「そうねー、今度のは多分大丈夫だと思う。ちょっと揺れはこれまでになくひどいかもしれないけれど。それが分かっていて物が落ちたり、壊れたりするの面倒だし、嫌だから固定することにしたの」。
「私ね、最初は嫌だったの。こんな地震の予知みたいな勘が働くようになって。怖かったの。けどね、分かったら分かったなりに何かできそうな気がして、かえって気が楽になったわ」。
「ところでそのちょっと大きな地震って、いつ来そうなんだ?」。
「多分、来週の水曜日。電車も止まると思うから会社から戻って来れないはずよ。いっそのこと何か理由つけて会社休んどいたら?」。
「『まさか、地震が来るから休みます』とは言えないし。けどできることなら、そうするよ」。
久しぶりにその夜はベットで二人で揺れた。地球と私の体は何ら変わりない。エネルギーの歪がその瞬間爆発し、マグマを発射して終わる。ただ違うのはただその周期。
− つづく −
(もちろん、フィクション)
(秀)