あくびがうつるというのは本当の話で、周囲であくびしている人がいると、こっちもあくびが出てしまう。だから寄席で落語の「あくび指南」を目の前でやられると、あくびが出た後、ついでにまぶたが重くなってくる。
さて、落語も聞いてばかりではつまらないので、ちょっと演じる方をかじってみようかと、やってみたい演目を考えてみる。初心者だからといって、「寿限無」や「饅頭怖い」でもなかろうと思う。以前は「金明竹」という噺が面白いので、これをやってみようかと思ったが、これは早口の関西弁での語りが全てで、所作というものがほとんどない。
せっかくだからきちんと所作があって、扇子や手ぬぐいを使って、芝居の必要のある演目を選びたい。扇子をキセルに見立て、煙草を吸う仕草なんかやってみたい。そこで思い浮かんだのが「あくび指南」という噺だ。扇子をキセルに煙草を吸うシーンはあるし、扇子を櫓にして船を漕ぐシーンもある。そして何よりも、あくびをリアルに決めないといけない。
移動中の電車やバスの中で、稽古を始めた。ただ何やらブツブツ言い出したり、間に合わせでペンを咥えてキセルの真似をするわけにもいかない。そこで頭の中でストーリーと語りを反芻する。ただこの噺に出てくる指南所の師匠があくびの見本を見せるシーンまで来ると、必ずあくびが出てしまう。途端に緊張がほぐれて稽古が止まってしまい、なかなか先に進まない。そしてさらに進むと本当にあくびが何度も出てきてしまう。
こうしてシーンを思い浮かべて原稿書きながらも、あくび連発。果たして芸としての完成を見ることはあるのか?。けど、最大の壁は正座。
(秀)