第1687話 ■初高座

 娘が通っている小学校に保護者を中心とした、本の読み語りのサークルがあって、私も今年から幽霊部員よろしく、そのメンバーに加わった。毎週火曜日の朝に各教室で本を子供たちに読んでやるサークルだ。「落語絵本」というものがあって、それを読んでやろうというのが私の目論見であった。

 ところが実際に見学に行ってみると、既に「落語絵本」シリーズの読み語りを恒常的にやっているお母さんがいた。「まんじゅうこわい」、「初天神」、「ときそば」など。ならばということで、私は寄席仕込みの口演にて、落語を語ってやろうと準備した。

 与えられた時間は10分。クラスは6年生のクラスである。そこでわたしは演目を「ねずみ」にした。間もなく彼らは修学旅行で日光に向かう。東照宮の見学もあって、事前のパソコンの授業では下調べをやっている時期だ。東照宮には国宝の「眠り猫」という彫り物があって、その作者が左甚五郎と伝えられている。そこで彼が出てくる噺を選んだ。

 別に着物を着ていくわけでもなければ(そもそも持っていない)、座布団に正座するわけでもなく、指定されたパイプ椅子に座る。子供たちは机と椅子を教室の後ろに下げ、体育座りで座って待っている。まくらでは、前述の東照宮の話から、甚五郎先生が出てくるこの噺を選んだことを紹介した。

 落語は基本的には会話劇だが、それでは時間が足らないし、はしょってしまうと話が分からなくなってしまう。ましてやきちんと落語のスタイルで口演できる技量もない。そこで私は地語り、いわゆるナレーションの部分を多くして、途中に会話が入るスタイルの落語もどきで口演した。

 無事にサゲまで持っていけて、サゲの意味も理解してもらえたが、いわゆる、くすぐりの部分が全くできなかった。目の前の大人が真剣に話をしているからか、子供たちも真剣に注目して聞いてくれた。変なくすぐりを入れて、「オヤジギャグ」なんて言われるのもつらい。ひたすらサゲに向かって駆け込んだ感じ。

 所詮、子供だまし程度だったと思うが、初高座としてはまずまずだったと思っている。次は秋になったら、「目黒のさんま」を口演しようと思っている。

(秀)