音楽CDをCDとして実際に音を出す機会は極めて少ない。今ではデータファイルという形で抜き出して、iPodやウォークマンに転送してから聴くことの方が多いはずだ。レンタルショップで音楽CDを借りる、あるいは貸す、このような場合に借りた側がそのCDを録音することはお互いに承知の上である。一時期、コピーコントロール信号により、パソコンへの録音を制限する動きもあったが、あまりにも不便であったため、すぐに消えてしまった。ネットを中心に不正コピーが跋扈している現状でありながら、今更時間をアナログの時代に巻き戻すことなどできない。
一方、アナログからデジタルへの転換途中の本についての話。この間、私のコラムの中でも自己所有の本を分解し、スキャナーで読み込んで電子ファイル化する動きについて書いてきたが、世間では思った以上にモラルが低下している現実を目の当たりにした。大手のネットオークションで裁断された本や雑誌が出品され売買されているのだ。もちろん、この裁断とはバラバラに切り刻んだわけでなく、本や雑誌の背表紙部分をカットし、取り除いた状態を言っている。
これからその本を入手して裁断し、スキャンしようとする人には手間が省けて良いのかもしれないが、出品者は自分でスキャンしたデータを保有しておきながら、要らなくなった本を売ろうというのであろう。中古で販売されている音楽CDであれば、前の所有者が録音物を保持しているであろうことは予想できるが、パッケージやディスクに使用感があろうと、音楽CDのスタイルは変わらない。一方、本は背表紙を失い、バラバラになっている。
自分が所有する本を切ろうが破こうが、それは所有者の勝手で、その状態で売るのも勝手かもしれない。しかし、それをスキャンして売り払うというのは著作権的にダメだろう(音楽CD等の場合はあらかじめ複製を前提に著作権保護のための費用が記録媒体等に盛り込まれている)。本気で「読むライセンス」という考え方が必要なのかもしれない。もちろん、本の中古市場自体も著作権保護の観点からは好ましくないものだろう。
(秀)