(初の短編小説に挑戦。たぶん、5話完結)
おぼろげに目が覚めていくにつれ、体のあちこちの痛さが伝わってくる。いや、この痛さで目が覚めたのかもしれない。記憶の糸をたどっていくと、ハンドルを握っていたところまでは覚えているが、それ以降は全く覚えていない。どうやら自分は病院に担ぎ込まれた様だ。左腕には点滴の針が刺さっている。
「目が覚めましたか?」
ちょうど、看護婦がやってきた。
「秀野俊介さんですね」。
「はい」。
「秀野さん、意識が戻りました」。
看護婦がナースコールでそう告げた。
「お連れの女性の方も、先程気が付かれましたよ」。
この呪文で一気に意識が覚醒したが、いっそのこと気を失ってしまおうかと思った。連れの女性というのは、妻でなければ、娘でもない。妻が子供と里帰りした隙に、ネットで知り合った彼女と「秘密のデート」よろしく、ドライブに出掛けた矢先に事故に遭ってしまったようだ。
看護婦が私の手を取って脈を取りだしたが、不規則なそのリズムで彼女には全てが読まれているような気がして、ますます脈が早くなっていくのが自分でも分かる。
少しずつ記憶がはっきりしてきた。前の車が窓から投げ棄てた空き缶を避けようとしてガードレールにぶつかって、エアーバッグが作動した。その瞬間に目の前が真っ白になり、何も見えないまま、次の衝撃で気を失ってしまった。
しばらくすると医者が病室に現れた。
「どうですか、秀野さん。どこか痛いところとか、吐き気がするとか?」
「体のあちこちが痛いんですが、吐き気とかはありません。けどまだ頭がもぁーとした感じで」。
「全身打撲とそれに頭も少し打っているようですね。意識が戻ったので再度脳波の検査をしてみましょう」。
「連れの様態はどうですか?」。
「ああ、あの女性なら、あなたよりも軽いです。大丈夫ですよ」。
「パパ!」。
「おとうさん」。
ちょうどそのとき、ドアをノックする音と同時に、妻と娘が病室に駆け込んで来た。
− つづく −
(もちろん、フィクションです)
(秀)