部屋の窓から、石を投げれば届きそうな距離の所に、大きな新しいマンションが建っている。工事着工時は遅々とした作業であったが、実際に階を重ねて積み上がっていくうちに加速度を付け、数日前に足場を解いてその全貌を現した。最近は乾きの早いコンクリートがあるのだろう。今月中に完成するらしい。地上10階、150戸というのはこの付近ではだんとつにでかい。
このマンションの建設をめぐっては地域住民との確執があった。「日当たりが悪くなるので、階を低くしろ」。現にこの周辺の他のマンションは当初の計画より低くなったらしい。迷惑な話だ。お陰で販売単価が上がってしまうではないか。うちのマンションもそうだったらしい。「車輌の出入り口を県道側の一ヶ所にしろ」。けど、自分たちは封鎖を要求する出入り口の向かい側に駐車場を持っている。法律的に住民達の主張には何ら正当性がない。結局、折り合いがつかないまま、新マンションはその販売会社の計画通り、間もなく完成する。
地域住民の感情が穏やかでないのは、自分たちのマンションの前に倍の高さの新しいマンションが建つことが気に入らないからではないか?。要は嫉妬である。おまけに広くて安い。向かい側にあるマンションは、おそらくバブル期にできたものだろう。これに比べ、新しいマンションは広さ2割増、価格3割引と言ったところか。
しかし、新しいマンションは安いものの、全体の3分の1がまだ売れ残っているらしい。確かに駅までちょっと遠い。それ以上に景気が良くないし。地域住民だけでなく、マンションの販売会社も、しかめっ面。新マンションの購入者もこんなに空きがあっては管理費や修繕積立において、困ってしまう。売る側も買った側も、はたまた周りの住民にもしかめっ面をされた、まるで鬼っ子のようなマンションがもうすぐ完成する。笑っているのは建設を請け負った会社と、新しいマンションのベランダに止まっているカラスだけ。
(秀)