第466話 ■平等悪の住処

 マンションなんていうのは平等悪の住処(すみか)である。同じマンションの中ではだいたい各部屋の値段は同じぐらいだし、予想もつく。そこに同じような年格好で同じような家族構成であれば、ほぼ同じくらいの収入を得ているのではないかという気もして来る。年齢や子供の数が違うのであれば、それほどでもないだろうが、同じ様な年齢や家族構成となると、平等悪はライバル心、あるいは見栄を誘発させる。

 ある日突然、隣の部屋の家族が車を買い替えたりする。しかも、ベンツだよベンツ。Aクラスだけど。そして、上の階に住む息子の同級生は有名私立中学を受験するらしい。そんなとき、インターフォンが鳴った。女房が玄関で応対して戻って来ると、手にはマカダミアナッツのチョコレートを握っていた。「ハワイ土産ですって」。子供達は歓声とともにむさぼりつく。相手は二軒隣の奥さんだった。

 マンションでは同じような稼ぎの同じような家族が小さなコンクリートの塊の部屋の中でそれぞれ同じように生活しているように見える。大まかにはそうかもしれない。しかし、それをベースとして平等悪による駆け引きが展開され、時間が経つにつれ、旦那の出世や会社の動向でこの差は拡大していく。最大の関心事は「○○さんが一軒家を買った」ということである。けど、下の階の奥さんが若くて美人であることにはライバル心や見栄ではそうそう対抗できるものではない。平等悪もここまでは及ばず、そこには不平等による嫉妬心だけが存在する。

(この話は私の想像によるもので、登場人物の設定等はフィクションである)

(秀)