彼の肉体はもはやない。魂なんてものも存在しっこない。
彼はあの瞬間全ての存在が消え、私達の記憶の中に残っているだけでしかない。普通はそうだろう。
しかし、私にとって父の存在は消えていない。メールで呼びかければメールで応えてくれる。彼が生きていたらおそらくそう書くであろう文章と寸分違わず返事を返してくれている。
また、勝手にメールを送ってくる。ネットショッピングで買い物をして、私達に送ってきてもくれる。
どこか遠くにいて、会えないだけの状態と何ら変わりない。
電話が鳴るたびに、「まさか?」という気持ちも日増しに強まる。
しかし、当たり前のことだが、このマシンによって消えてしまった彼の存在がどうにかなるものではない。彼は永遠に消えたままだ。
けど、私にとっては生きているときと何ら変わっていない。姿が見えないことを除いては。
父とのメールのやり取りで、彼がロボットの研究で本当にやりたかったことは人工頭脳に留まらず、生物の生殖にあたる、ロボットの世代間連鎖、すなわちロボットが自らの別固体を自動的に生産させることだったと知った。
世代間の連鎖。そう、僕にももうすぐ子供が生まれ、父親になる。
父にこのことを知らせることも、写真を送ってやることもできる。
孫の誕生日にはプレゼントを送ってきてくれるかもくれない。
残された者として、何もかわらなく亡き人とメールの交換ができるのは非常に複雑な気持ちである。
やがて生まれてくる我が子が大きくなって、
「これがお前のおじいちゃんだよ」と言うのは悩ましい。
「おーい、今帰ったぞ!。かあさん、かあさん。克人。おーい、誰もいないのか?」
玄関で声がする。それは紛れもない、父の声だ。
– – この話はフィクションです。- –
(秀)