第737話 ■父からのメール(2)

 その手紙を読み進むと、それがいたずらでも嫌がらせでもなく、彼自身の手によるものだと分かった。手紙の中身の大部分はパソコンの指示書だった。そして、自分の初七日にこの手紙が届くようにわざわざし向けた仕掛けが生前にある人にそう言付けて託したためであることが記されていた。いたずらと言うなら、本人のいたずらとでも言うべきだろうか?。父はこんなことが好きだった。母はまた涙を流している。

 昨年定年を迎えた父は、生前、ある企業で人型ロボットの研究をしていた。いわゆるアトム世代である。二足歩行の人型ロボットは今から10数年前に誕生し、簡単な意志の疎通を図れる程度のロボットなら最近は珍しくない。話では父の研究の成果もそれらには活かされているらしいのだが、詳しいことは知らない。ただ彼が目指した、アトムのような自由意志を持ったロボットは2015年を迎えた今も未だ誕生していない。

 父の死からまだ約1週間しか経っていないというのに、この数日で何度も親父の事を夢に見た。まるで誰かに操れているように。そして多分今日もあの手紙のせいで親父と夢の中で再会することだろう。

 父の書斎に足を運ぶ。まだ在りし日のまま、何も片づけられていない。遺言というべきか、父からの手紙に従い、最後に手を掛けていたあのパソコンのスイッチを入れてみた。見慣れないOSが立ち上がり、パスワードの入力を促す。手紙を読み返してみる。
「19840511」
 これは私の生年月日だ。これがパスワードとは。

 マシンは起動を終えると、ネットワークを通じデータらしきもののダウンロードを始めた。
「起動後はそのまま通電しておくこと」
 見たこともないOSだし、これ以上操作方法も分からないので、言いつけ通りマシンはそのままにして部屋を出た。

 自分の部屋に戻ると、私のパソコンのパイロットランプが点滅して、メールの到着を知らせていた。

件名、マシンの起動ありがとう
差出人、久山 明人

「まさか?」
 送信日を確認する。タイムスタンプは2分前。私はあわててそのメールをダブルクリックした。

<つづく>

– – この話はフィクションです。- –

(秀)