もう1つの話題は、言わずもがな、東京品川区の美智子皇后の実家、旧正田邸の解体を巡っての問題についてだ。「残すべき」と主張する人々の内容がいくつかに分かれていて、そのためか解体の是非を判断する上で私も多少迷うところがある。有無も言わさぬような、決定的な理由が見当たらない。またそのインパクトが個々としては今いち弱く、何だかそれらの合わせ技で押し切ろうと言う感じに思える。
まず、「美智子皇后の実家だから」という主張。感情的には分からんでもないが、法律の前に感情論を持ち出しては法治国家としての前提が成り立たない。それなら今後小和田邸も勝手に家を壊したりできなくなってしまうのでは。「貴重な建築物だから」という主張。これは専門家の意見も分かれるところ。貴重であると言う人もいれば、増改築を行っているため、当時オリジナルのコンデションでないため、それほどの(文化的)価値はないという人もいる。金銭的には今の状態よりも更地にした方が資産価値が増すというのが財務省の見方である。不動産的には家屋の評価はないというよりも、マイナスかもしれない。
そもそもこの旧正田邸は相続に伴って、物納されたものである。相続税額が33億円ということは、逆算すると、50億円ちょっとの遺産が相続されたことになる。改めてこの税率の高さに驚くが、私にはあまりリアリティがない。それはさておき、一般に資産を換金した方が得であれば、それをまず換金し、その回収した金で相続税を納めるだろう。それをしない、それができないので、物納。物納とはそういうもんだと思う。これは、価値をどう見るかの一つのものさしだと思う。
正田家の人々はこの旧邸宅以外にも遺産を相続したはず。ここから先は私の想像でしかないが、邸宅の物納を申請したところから判断して、金銭などの流動性の高いものはあまりなかったのではなかろうか?。そして日清製粉の株式が相当含まれていたのではなかろうか?。株価低迷の折り、手放すのはもったいない。また、まとまった株を一斉に手放すのは同社の株価にも影響が出る。そして何よりも創業者一族として同社の経営権を手放すわけにいかなかったのではなかろうか?。そして消去法で残った邸宅の物納という結果。
当事者にとって、邸宅よりも会社の方が大事だった。苦悩はあったかもしれないが、そういう判断をした。実際に住んでいた人の愛着に比べると、「壊すな!」と叫ぶ人々の愛着や親しみなんか、所詮他人の思い過ごしのようにしか感じられない。当事者が手放してもやむなし、と判断したものである。それは金銭的な理由による判断であった。解体反対派の人々が正田家の立場であったら、株式を換金するなり、それを物納していただろうか?。そこまでして邸宅を守りたいというのなら運動を続ければ良い。資金を集めて、買い取るくらいの気概でやれば良い。愛着とか親しみという金にならない感情で主張しても、少なくとも私の心には響いてこない。
(秀)