第137話 ■ヨーヨーチャンピオンがやって来た [後編]
最近では色々と多くの技があるようだが、当時はテレビや雑誌などのメディアで紹介されるものでもないので、みんながごく限られた技を日々繰り返しているだけだった。何かと努力や練習を要するものが嫌いな私は、犬の散歩をクリアした後、ブランコで挫折し飽きてしまったが、それでもブームはしばらく続き、「ヨーヨー大会」や「ヨーヨーチャンピオン来る」などといったイベントがデパートなどで催された。
そんなある日学校の帰り道、赤いブレザーの男の人が駄菓子屋の壁に何やらポスターを貼っていた。ポスターはヨーヨーイベント告知のもので、チャンピオンらしい人の顔写真が20人ぐらい並んでいた。階級がいくつもあるわけでなく、チャンピオンがこんなにたくさんいるのも変な話であるが、その頃は純粋な少年であったためそんな疑問もなかった。ポスターを貼り終わるとその男性はポスターにある一人の顔写真を指差して、「自分はチャンピオンなんだぞ」と無言のアピールをして車で消えて行った。確かにそのポスターの人であり、なるほど、彼が着ていた赤いブレザーはポスターのみんなと同じで、これがチャンピオンの証らしい。
翌日学校では「俺昨日、ヨーヨーチャンピオンに会ったんだぜ(原文は方言)」と自慢したが、それがいったいどれだけの意味を持つというのだろうか。ところで、あのチャンピオンはチャンピオンになる前は何をしている人だったのだろうか?。もちろん誰がチャンピオンと認めたかという疑問もあるが。何につけ、ブームの前に訓練して相当なレベルに達しているのはそれなりに凄いが、こと子供の遊びごときとなると尊敬というものではない。今思えば年格好からして彼らは昭和38年時のブームの生き残りだったのかもしれない。
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