第1379話 ■定食屋おふくろ

 私が通っていた大学の正門の前にいくつもの定食屋が並んでいた。もちろん、学生を相手にしている。私は自宅から通っていたが、たまにはアパートや寮に暮らす、友人や先輩たちと一緒にこの定食屋に行くことがあった。大学の中には学食もあって、そっちの方が値段も安いし、カロリーや栄養の面では勝っているだろうが、昼も夜も学食では寂しいので、夜は定食屋に通うことが多かった。ちなみに定食屋は夜のみの営業だったような。

 確か定食屋は4軒あって、ほとんど価格は横並び。その中でも一番人気の店は正門の真正面に店を構えた、「おふくろ」という名の定食だった。店内はカウンターがほとんどの20席ほどの店。店員は全員おばさんで、誰がこの店の主人で、ザ「おふくろ」なのかはとうとう分からずじまいだった。まず、この店を覗いてみて、込んでいたら別の店に流れる人が多いため、いつも満員の店だった。

 メニューはチキンカツ定食が400円、焼肉定食が450円。そして店の名を冠した、おふくろ定食が400円だった。この他にもメニューはあったと思うが、あいにくこれ以外はオーダーしたことがなく覚えていない。おふくろ定食はキチンカツ一切れとコロッケの組み合わせだったと思う。キャベツの千切りと赤いスパゲティをベースにメインのおかずが載る。飯はもちろん、どんぶり飯である。私は焼肉定食が最も好きだった。焼肉の量は少ないものの、濃い味付けであるため、ちょっとのおかずでご飯を大量にかき込む。

 どの店も伝票なんてこじゃれたものなどない。定食のお盆に「400」や「450」と書かれた紙が置いてあり、食べ終わったらその紙を持って、会計を済ませる。紙に書かれている数字の単位は、もちろん円である。中にはそんな紙など使用せず、楕円形をしたプラスチックの札を使用していて、メニュー毎に色が決まっていたりした。

 学園祭の準備中、講義が終わった後、深夜までの準備の毎日に、この夕食の「おふくろ」が唯一ホッとする時間だった。慌ててかき込み、また準備に戻る。こんな記憶に残るなつかしい店ももはやなく、その跡地に今ではコンビニが立っている。かつての定食が今ではコンビニ弁当となって学生たちの腹を満たしているのはちょっと寂しい。

(秀)