第1415話 ■自費出版の幻想
- 2008.01.10
- コラム
先日、自費出版最大手の新風舎が民事再生手続きを申請したと報じられた。以前にも同様の碧天舎(業界3位)が倒産している。彼らのビジネスモデルはこうだ。まず、出版原稿募集ということで、素人からの原稿を募る。優秀作品は自社で出版費用を負担し、商業流通に載せるというものだ。もちろん、印税ももらえる。しかし、現実に商業出版に耐えられるレベルの原稿を素人がそうそう書けるものではなかろう。また、いくら良い作品でも出版不況の昨今、売れる見込みがなければ商業出版の対象にはならない。
というわけで、ほとんどの作品が選外となるが、彼らの狙いはここからだ。「残念ながら入選はできませんでしたが、非常に良い作品ですので、眠らせてしまうのは惜しい」と自費出版を勧めてくる。著者としては悪い気はしない。しかし、その費用はざっと200万円を超えていたりして、出版して本が売れようがどうしようが、出版社はこの出版費用だけで利益を稼ごうという話だ。共同出版なんて、嘘っパチだ。本を買う人がお客様ではなく、本を出す(出版費用を負担する)人がお客様となる。
その際、出版社は自費出版でありながら商業流通に載せることを約束するが、全国津々浦々の書店に本が並ぶはずなどない。ごく限られた提携書店にのみ並ぶらしいが、そこは出版社がわざわざ自社用に棚を買って、並べているような状態だ。しかも期間に限りがある。ここでトラブルが起きる。「本が書店に並ばない」、「本が売れない」と。一部は契約の不履行で裁判沙汰にまで発展している。その影響があって、冒頭の様に相次ぐ倒産騒ぎとなっているようだ。自費出版会社の広告は大手の新聞で見かけるが、このような広告が載っていない新聞社によって報道されていることだろう。(広告をもらっている新聞社は記事に書けない)
かく言う私も冒頭の2社に原稿を送ったことがあるが、入選はしなかったし、ここでの自費出版もしていない。団塊の世代の大量退職で自費出版はブームなのらしいが、一方で、櫛の歯が落ちるように、しかも大手の出版社が市場から消えていく。印税などを求めず、地道に少量を配布するだけのスタイルがこのブームの実態であればまだ良いのだが。
(秀)
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