第1425話 ■アルミ鍋

 今から30年くらい前の話。今でこそ店で食べる鍋焼きうどんは一人用の土鍋に入って出て来ることが多いが、昔は両手の付いたチープなアルミの鍋で出て来ることがほとんどだった。これまたアルミの赤い蓋をちょこんと載せて。それがいつ頃からか、そのアルミ鍋自体を見かけなくなって久しい。食べ物屋からだけでなく、世の中からすっかり消えてしまっている。

 私はこのアルミ鍋に一つの思い出がある。小学生のとき、友達の家で遊んでいたら、ちょうど昼時になった。その日、その家のお母さんは外出していて、友達とその弟、それにそこのお父さんがいて、昼食はラーメンということになった。「一緒に食べていきなさい」と言って、おじさんは袋に入った即席麺のラーメンを4人分作った。

 そのときの調理器具と器がまさにアルミ鍋だった。4人家族だから4つのアルミ鍋があって、おばさんがいない分、ちょうど私が鍋にありついたのかもしれない。具は乱切りのキャベツが入っただけの何の変哲もない即席ラーメンだったが、これがとても美味かった。

 器のせいかどうかは分からないが、できれば同じようにまたアルミ鍋でラーメンを食べたかったが、あいにく家にアルミ鍋はなかった。小学生なので思いはそれで終わり、アルミ鍋を探し求めるでもなく、いつの間にかアルミ鍋のことも忘れてしまっていた。

 両手の付いた一人用のアルミ鍋は何故世の中から消えてしまったのだろうか?。耐久性の問題か?、アルミ成分の溶け出しの問題か?、私には知る由もない。そんな中、ついにアルミ鍋を買い求めることができた。娘の高校の文化祭のバザーに出品されていた。蓋にメーカーらしいシールも貼られていたので、おそらく新品だろう。食器がたくさん並んでいたので、学食のストックだったのかもしれない。手に取って見ると、ちょっと形に歪みが出ていたが、簡単に手で直せた。

 さっそく買い求めたまでは良かったが、わが家はオール電化のIHクッカーでアルミ鍋はそのままでは使えない。ニクロムのヒーター部分を使えば調理できるが、いつもの様に手に入れただけの満足感で、実際にはまだ使用していない。

(秀)