第168話 ■ロビンソン

 私が卒業した高校の校歌は学校名が微塵も出て来ない、それはそれは校歌とは思えないような校歌であった。そんなことはみなさんに全く関係のない話であるが、ストーリー展開上、書き出しとしては大変重要な話である。

 スピッツの新しいCDが発売された。「RECYCLE」というタイトルで、オリジナルではなくベスト盤であるが、そのままシングルヒストリーと言える、全13曲入りの、これは必聴ものである。うっかり発売日を忘れていたが、近所のセブンイレブンで買い求めた。スピッツの曲は詩が好きである。クレジットを見ると、ボーカルの草野正宗(歌手のときは「マサムネ」)の作詞作曲になっている。独特のあの詩の世界を「草野ワールド」と呼ぶ。

 スピッツは「ロビンソン」でブレイクした。’95年春のことである。この曲はカラオケでもよく耳にしたりするが、イントロのあのギターのフレーズが何回繰り返されるのか分からず、待ちきれずに歌い出しを外してしまいそうな曲である(正しくは4回聞いて、歌い出し)。ところで、この曲の中にロビンソンという歌詞は一切出てこない。かつて、この理由をラジオで彼らが話していた。そもそもロビンソンというのはモスクワにあるデパートの名前ということだった。彼らはいつも、曲ができるととりあえず、コードネームの如く仮タイトルを決めることにしていて、その仮タイトルがロビンソンだったというわけだ。実際にモスクワに出かけたときの印象が余程深かったのだろう。そして、結局正式タイトルを決めることなく、ロビンソンのままリリースされたわけだ。

 試しにこの曲に名前をつけてやろう(この部分が「名前をつけてやる」という彼らのアルバムタイトルとの洒落であることに気付いた人は相当なスピッツフリークと言える)と歌詞を眺めてみた。サビの最後に出て来る「宇宙の風」というのはきっと候補に挙がったことだろう。けど、ちょっと違う。例え、ロビンソンでなくてもこの曲は仮タイトルのままでリリースされたような気がする。ほーら、校歌の振りが重要だったろう。