第1908話 ■「こち亀」の記憶断片

 私が「こちら葛飾区亀有公園前派出所」を初めて見たのは、近所の貸本屋でのことで、コミックの第1巻、「山止たつひこ」という作者名を見て、当時好きだった「がきデカ」の作者の新作だと誤認してのことだった。「上」と「止」、この違いが一見分からずに、画風が違いながらも、借りて読んでみたら面白かった。このペンネームでなければ、「こち亀」との出会いは、やや遅れていたことだろう。

 その貸本屋には、いつもおばあさんが店番をしていた。本をカウンターに持って行くと、本のタイトルを帳面(ノートではなく、敢えてそう呼びたい)につける。長いタイトルを細かい字で書いていたのを思い出す。本当にこの貸本屋ではいろいろな漫画を読んだ。実に多くの漫画と出会った。

 最寄りの松戸駅から各駅停車で2駅、上野方面に移動すると、そこが亀有だ。移り住んだ頃にはまだ駅前の銅像はなかった。二十年弱以前の話だが、JRの主催で「こち亀」のスタンプラリーが行われた。まだ小学校に上がる前後の長女と長男を連れて、常磐線の沿線を電車と歩きで移動し、スタンプを集めた。このときの話をすると、二人ともちゃんと覚えていると言う。亀有駅のスタート地点に両さんを模した、おそらくJRの職員らしい人が参加者を見送り、写真撮影などに応じていた。ただ、髪型が似ていると言うだけの選考基準かも知れない。マジックであの形の眉毛を描いていて、「ほら、両さんだよ」と言うと、「違う!」とわが子たちは逃げていた。

 数年前に「70年代少年倶楽部」という集まりで、亀有を散策したことがある。銅像を全てコンプリートしようと数人で歩きまわった。周知のことだと思うが、亀有公園前派出所はない。ただ、亀有公園はあって、そこにも両さんの像が建っている。そもそも亀有公園はあんな道路に面していない。どうやら交番のモデル自体は亀有駅側にある、亀有駅北口交番らしい。それとショッピングモールの「アリオ亀有」内には、あの交番の実寸大レプリカがあり、等身大の像が建っている。

 「こち亀」に出てくるキャラクターの中では、日暮熟睡男(ひぐらしねるお)が好きだった。いつも寝てばっかりで、オリンピックのある年にしか起きない。そして難事件を特殊能力で解決し、また4年間の眠りにつく。誕生日が2月29日というのも笑える。今年も無事、本誌ではなかったものの、増刊号にて登場したらしい。東京オリンピックの年に目覚めた際の活躍を期待していたが、それを待たずに連載が終わってしまうとは。けどきっとこの頃は東京を舞台に両さんが張り切っているだろうし、忘れられていなければ、きっと日暮も出てくるだろう。このときに臨時での執筆を期待したい。

(秀)