第423話 ■機械オンチなオヤジ達

 私が勤めているのはコンピュータ関連の会社である。そのため、年配者であっても比較的スムーズにパソコンを使っている。しかし、これも日常的な作業範囲なら可能であるが、新たなソフトのインストールやエラー発生時の対応となると彼らも詳しい者の助けが必要となる。

 エラーが出ていざ助けてあげるとなると、困ることが二つ。まず、嘘をつく。「(エラーが出る前に)何かしましたか?」と聞くと、必ず「何もしていない」と言う。エラーが出る場合はその直前の作業を元に対応するのが最も効率的であるが、自白しない。結局必要以上の時間を要し、「○○しませんでしたか?」と尋ねると、「あっ、そう言われればやった(なぁ)」と自供する。

 もう一つはエラーの原因や行った対処方法をしつこく聞いて来る事である。話しても理解できるものではないし、そんなに分かり易く説明出来そうもない。。復旧以上の時間を労してしまう。今度同じような事が起きた場合は自分で何とかしようという前向きの態度ではあろうが、どうせまた呼ばれるだろうし、下手にいじって戻せなくなる可能性もあるので、「これで大丈夫です」と言って片付けてしまう。それでも聞こうものなら、「難しいですよ」と言って、脅かす事にしている。

 かつてこんな事件が起きた。先月末で停年退職した隣の部の部長が「メールが読めない」と騒いでいる。私に助けが求められ、その元部長から社員番号を聞き、メールサーバの個人用のポストを調べると、そのポストが無い。定年退職したとは言え、継続雇用でしばらく勤務を続ける人に対し、何とIT管理部門は冷たいのだろうか。しかし、この事実を本人にどう伝えようか?。「ポストが削除されてます」ではあまりにも可哀想だ。「あれ、おかしいな。社員番号はこれで間違いないですか?」。自分の社員番号を間違える人などいるはずないが、これが精一杯の私の気遣いだった。

 「ああ、そう言えば今月から変わったんだった」。どうやら、再雇用となると社員番号も新しくなるらしい。拍子抜けしてしまった。新しいポストで環境を再設定してメールは使えるようにしてあげたが、以前のポストにあったメールは既に消えてしまい、メールは空っぽである(メールはサーバのポストに置いておくシステムだったため)。元部長はさすがに困ったが、私に矛先を向けるわけにもいかず、「勝手にこんなことされてもな」とぼやいている。けど、新しいポストが既に用意されていたところからして、IT管理部門はポストを移行する事を事前にメールで通知していたと思う。そのメールを見てなかっただけだと思うよ、きっと。

(秀)