第438話 ■変なじいさん 前編

 会社帰りの電車の中で、前の座席に座っていた、齢七〇歳代後半と思しきじいさんが私に話し掛けて来た。そのとき私は彼の座席の前に立って、いつものように携帯端末でコラムを書いていた。「これは、あれですか、携帯電話と同じですか?」と、私の携帯端末を指して問い掛けて来る。「いいえ、これは携帯電話と違いますよ。これは電子手帳です」と答えたが、電子手帳では通じなかったようだ。「私はペースメーカーを入れているもんですから」とじいさんが言う。

 私の携帯端末の電磁波がじいさんのペースメーカーに影響を与えているとは思えない。携帯端末と言っても通信機能が付いているわけではない。ちょっと賢い電卓程度である。「電磁波が(全く)出ていないか?」と聞かれると、ゼロとは言い難いが、テレビを見ていたり、コタツに入っているよりは遥かに微量に違いない。しかし、じいさんの目には電磁波を巻き散らしているように映るのであれば、それで心臓がパクつかれては困る。「気になりますか?、携帯電話ではないんですけど、それなら電源切りますね」と、答えた。

 それからじいさんが変なことを言い出した。「知ってますか?、電磁波が脳梗塞の原因だと、外国(具体的な国名を挙げたが失念)の研究者が言ってるんですから」。そんな話はアバウトすぎて反論にも値しない。逆に、先日の朝日新聞が総務省の「携帯電話の電磁波が人体への影響はなし」との発表を報じたことは知っている。ペースメーカーとも二〇数センチ放せば、大丈夫とも書かれていた。しかし、ここでこの話を持ち出すのは電車内での携帯電話の使用を肯定しているように思われるので自粛した。もちろん、私は電車内での携帯電話の使用には反対である。

 【じいさんのおかしな話はよりパワーアップして明日へ続く。実はこれからが面白い】

(秀)