第548話 ■秘密のデート(3)

(初の短編小説に挑戦。たぶん、5話完結。その第3回)

 彼女と私の共通点はサザンオールスターズが好きなことだった。去年の茅ヶ崎ライブの話では大いに盛り上がった。まだ二人が知り合う前であったが、同じ会場で同じ感動を共有していたことで急に親近感が増した。彼らのデビュー当時の昔話を交えてうんちくを語る私に悔しそうにすねてみせる姿がいとおしい。

 もちろん、彼女には私が妻子持ちであることは告げてある。にも関わらず、「『LOVE AFFAIR~秘密のデート』のコース巡りのドライブをしてみませんか?」という私の投げかけに、「面白そう!」、と彼女は応じてきた。

 彼女の原体験としてのサザンというのは、活動再開後の「みんなのうた」からだと言う。私にとってはむしろ、活動停止前の曲の方が馴染みが深い。しかし、それでも10歳くらい年上のサーファーくずれの上司から「サザンを聞きながら江ノ島行ったのは良いけど、渋滞でさー。まわり、みんな同じ様な奴ばっか」、なんて話を聞かされると私達の年代は立つ瀬もない。何しろ、その頃は中学生だったから。

 ドライブ中の音楽はできるだけ新しいサザンの曲にしてみた。しかもキーワードは夏。「波乗りジョニー」の次は古い曲ではあるが、どうしても外せない曲として「海」にした。
 「私もこの歌、好き」。
 そう言ってもらえるのはうれしかったが、今更ながらサザンの曲は下心がばれそうな曲ばかりで、このようなシチュエーションで聴くには、ちょっと抵抗があるような気がしてきた。「マイベスト」のように、MD(かつてはカセットテープだった)を編集してみたのは何年振りだろう。

 「烏帽子岩を見に行こう!」。
 「エボシイワ?」
 「チャコ」を口ずさんであげると、彼女は微笑んで大きく肯いた。このときまでは、まだ全てが順調だった。

 ’85年にリリースされた「KAMAKURA」というアルバムの中に、「死体置き場でロマンスを」という曲がある。わざわざ香港まで不倫旅行に出掛けたものの、全ては妻にばれていて、不倫未遂の状態で二人が拉致されるという歌詞である。シチュエーションは違うが、ちょうどこの曲が流れる中、事故に遭ってしまったのは何かの因縁なのだろうか?

− つづく −
(もちろん、フィクション)

(秀)