第72話 ■オイシーのが好き!

 先クールのドラマで「週末婚」というのをやっていた。永作博美が主演で松下由樹が助演。聞くところによるとドロドロとした、略奪の恋愛ドラマのストーリーだったらしい。松下由樹は過去にも「想い出に変わるまで」の中で今井美樹演じる姉の婚約者を奪い取る役をやっていた。確かに「ナースのお仕事」での主任役というのもあるが、略奪の恋愛がはまり役だったりする。

 女優、松下由樹のデビュー作は「アイコ16才」だった。少女漫画が原作で、富田靖子がオーディションで選ばれデビューした映画でもある。当時の彼女の芸名は松下幸枝となっている。その後彼女が再びメジャーに露出するのは、いきなりドラマ初出演での主役となった、テレビドラマ「オイシーのが好き!」だった。平成元年のことである。私はその年の春に上京し、このドラマは3クール目、すなわち7月からTBSで放送された。

 「オイシーのが好き!」は私にとって、ある種、記念すべきドラマだ。ドラマに設定された地理的条件等が全て分かるようになったのである。設定はこうであった。彼女は北松戸に一人暮らし。毎日駅まで折り畳み式の自転車で出掛け、その自転車を駅で大きい方のコインロッカーに300円で預ける。毎日300円掛けて自転車をコインロッカーに入れるというのはどこか無駄な気もするが、駅までの往復のバス代を考えれば、それほど飛躍した設定ではない。何しろその自転車がおしゃれだった。彼女はそこから東銀座へのオフィスに通っている。北松戸はトレンディドラマとしては異端であるが、北松戸から北千住までは常磐線、北千住で乗り換え、そのまま東銀座まで日比谷線。通勤条件としては結構良い方だ。この通勤時間を考えれば、かえって現実的で、駅まで徒歩で通えないところに部屋を借りているあたりがリアル感を付け加えている。勤務先は東銀座の出版社、マガジンハウスをモデルにしていた。ざっとこんな状況が分かって見るドラマというのは、これまでの設定の現実感がないまま、全てフィクションと同じ様な見方とは全く違っていた。

 ところで、このドラマのストーリーであるが、トレンディの恋愛ドラマであった。相手役は石田純一と藤井フミヤ。いわゆる二股の女であった。単純恋愛のストーリーはこのときから似合っていなかったのかもしれない。石田純一というところにかつてのバブルの頃の時代を感じる。