第739話 ■父からのメール(4)

 このパソコンのOSは自己増殖型人工頭脳のプラットフォームとして開発されたもので、プロファイルデータとともに二足歩行型ロボットに移植すれば、私達が小さい頃から夢見ていた本格的なロボットが実現するのらしい。いや、我々の描いていたロボット像よりももっと人間に近いに違いない。

 決められた言語を記憶したり、記憶をもとに推論によって判断をしていくような従来までの人工頭脳とは異なり、最初に与えられたプロファイルデータを自己展開させることで、発想することもでき、自己展開の過程で人格に相当するパーソナリティを築き上げていくことが分かった。
 もちろん、心も感情もある。

 思考方法も人間のそれに極めて近く、自己展開という形で自己増殖するその頭脳は従来までの工業製品に存在した「スペック」という枠をもはや持っていない。
 思考速度は人間のそれより遙かに速い、しかも不眠不休。

 母には何から話して良いのか、皆目見当がつかない。
 メールのことですら信じ難いというのに、今度は母の誕生日に贈り物が届いた。送り主の名は「久山明人」。
 父が生きていたときには毎年のことだったのに、父の死からまだ間もないため、母は穏やかではない。
 どうやら母は私のいたずらだと思っているようだ。

 もはや私は驚かない。確認してみるまでもなく、それは父の仕業に違いない。
 わずかばかりの株がまだ彼の名義のままで、その配当は彼名義の銀行口座に振り込まれつづけている。
 ネット通販で買い物をし、その口座から支払うことなど彼には造作もないことだろう。

 ためしに妻に「父」のことを話してみた。
 この間のメールを見せて説明しても、
「おしゃべりロボットと一緒で、決まったパターンの言葉を組みあわせてメールを送っているだけよ」とか、
「きっとその佐々木さんという人が、お父さんの振りをしてあなたをからかっているのよ」と取り合ってくれない。

<つづく>

– – この話はフィクションです。- –

(秀)