第840話 ■お父さんの仕事

 子供達の2学期が始まってすぐに、小学校に夏休みの宿題展示会(本当はそんな名前ではないが)を見に行った。各教室や廊下に展示されているほとんどは工作の類であるが、高学年になると、手芸の類やお菓子作りの過程をデジカメで紹介した家庭科モノなんてのも現れる。その中で私が今回注目したのは、父親の仕事についてレポートしたものだった。

 その子は6年生の私の長女とクラスメイトで家も近く、たまに一緒に遊んでいたりする。彼女のお父さんは自動車ディーラーで事故車の修理をしていると、原稿用紙にしたためたレポートの冒頭で紹介されていた。彼女の提出物は3点。原稿用紙3枚のレポートと、そのときの写真。それに自動車のドアの一部分。動機は「お父さんがいつもどんな仕事をしているか知りたい」というものだった。彼女は弟と連れ立って父の職場に向かい、見学どころか、実際に板金修理を体験したのだった。

 パラパラとポケット式の小さなアルバムをめくると、ドアの凹みを如何に直していくのかの工程が彼女の手によって展開されている。削ったり、パテ埋めしたり、そしてまた削ったり。自分の車が凹んでその修理過程を眺めているのなら苦々しいが、こうして板金の過程を子供の手で紹介しているのを見るのは微笑ましい。アルバムの最後のページは、修理し終わって半分だけ塗装した(残り半分はパテ埋めの状態が見えるようにわざと塗装せずに残してあった)ドアの前でその姉弟が満面の笑顔でピースサインを出した写真で締めくくられていた。

 アルバムの横にはそのとき修理したドアが、そのままでは無理なのでその修理箇所を中心にノートほどの大きさに切り取って展示されてあった。「作品に手をふれないで下さい」という先生の注意書きをよそに、他に誰も見ていないのを確認し、そっとそのドアに触れてみた。見事にパテ埋めされ研磨されている表面を撫でながら、「ほおー!」という感嘆の声が期せず洩れた。

(秀)