第860話 ■ザ・漱石
会社の帰りに新橋で寄り道をした。寄り道と言うか、新橋の駅で下車して、どこかに行ったわけではない。いつも地下鉄からJRに乗り換えるだが、この日はJRの改札の横を素通りして、烏森口のSLのある広場に出た。テレビでよく酔っ払ったサラリーマンが取材を受けているあの場所である。年に3度、この広場で古本市が開催され、その最終日であった。たしかそれぞれ3日間ぐらいずつやっているはずなので、もっと早く気が付きそうなものだが、ここ数日はJRのホームからSLの広場を見下ろすことがなかった。今朝その古本市に気がついて、会社の帰りに行ってみたら最終日だった。
グルグルと全ての出店を見て回るとそれだけで簡単に1時間は潰れてしまう。何かを探しているというよりは、手頃な価格で何か見つかったら買ってやろう、といった感じだ。街の古本屋ではなかなか目にしない、ハードカバー(しかも函付き)の真面目なものから、そのすぐ隣のワゴンでは文庫本の100円均一だったり、さまざま。何の脈絡もない落差がまた面白い。買わないまでもいろいろと手にとって冷やかしてやろうと思う。冷やかしでも、いつものように静まり返った古本屋店内でのバツの悪さもない。
せっかくなので、漱石の本がないか探してみた。ハードカバーの中に全集がまぎれているが、揃い巻ではない。並んでいるのは決まってマイナーな作品の掲載されている巻だったりする。もっとも全巻揃っていたらそうやすやすと買える金額ではなかろう。文庫本で10冊になった全集揃い巻を発見したが、4,000円とのことでちょっと悩む。揃い巻ということでまとめてラッピングされていて、中の状態を見ることができなかったのであきらめて先へ進んだ。
しかしさすがは古本市である。探せば何とか見つかる。「ザ・漱石」という本があった。「全小説全一冊」というサブタイトルである。隣には「ザ・多喜二」が並んでいた。ちょっとした薄手の電話帳ぐらいの感じである。B5サイズで752ページあった。本当にこの一冊にあの文豪の全作品が掲載されているのかちょっと疑わしいが、目次を見ても果たしてそうなのか、私には判断が難しい。とりあえず、知っているタイトルは全部載っている。中の文字はパソコンで言えば6ポイントよりもさらに小さく思える。電車の中で読もうものなら、揺れて文字を見失うこと間違いなしであろう。
まあ、いろいろと文句は耐えないが、500円というのにも惹かれて購入した。「夢十夜」という作品を読みたかった。短編のため他の作品とあわせて文庫本にもなっているようだが、この作品はなかなか本屋で見かけない。「こんな夢を見た」という書き出しで、十日間に見た夢を綴る形の話である。果たしてこれを十日かけてゆっくり読むのか、引き込まれて読み急ぐのか?。秋の夜長に、読書の秋。
(秀)
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