第929話 ■近未来事件簿・自動販売機経済論

 江戸幕府が元禄期に貨幣の改鋳を行い、金の含有量を下げることで、その上がりを幕府の手中にした話は有名だが、それは貨幣が金を含んでいたから意味のある話で、紙切れをいくら刷り直そうともそこからいくらかの上がりが政府の借金を補填するものではありえない。しかし、経済効果という謳い文句はいくらでも出てくる。

 一般的に紙幣や硬貨を改めることは、内需拡大による経済効果が期待される。とりあえず、世の中に存在するそのほとんどの自動販売機は新金種判別のための改造を加えるか、その機械を買い替えなければならない。このため、一方にはこの内需がデフレ緩和の効果ありと目されている。しかし、自動販売機の改造や置き換えに伴う出費を最終的に負担するのは消費者である。何分時期が悪く、デフレ緩和どころか、商品の値上げに伴う、消費の冷え込みを指摘する声もある。例えば、タバコにビール。これらは税金の引き上げにより先ごろ値上げされたばかりだ。また、自動販売機で売られているもう一つの代表選手であるジュースなどもこの間、デフレとは無縁で価格は据え置かれている。これではデフレ緩和どころか、単なる値上げでしかない。

 有人改札を機械化し無人化することは人件費を抑える効果がある。またICカード式の定期券は人が改札を通り抜ける時間を短縮することで、改札での混雑を緩和に役立つ。また、定期券を機械の中で移動させる必要がないので、機械の駆動系に関するトラブルが圧倒的に減少できる。これらは経営的に十分投資に値する。ところが切符販売機に対応する券種を拡大することは売上の拡大や業務の効率化には何の効果ももたらさない。しかし公共性の高い鉄道会社が新券種の対応を拒むことは許されない。

 実際に潤うのは自動販売機をはじめとする、ごく一部の業界でしかない。果たしてそこから全体的な経済活動に好材料を提供できるかを疑問視する声もある。そんな中、財務省が自動販売機の工業会に対し、これを機に二千円札への対応もあわせて行うように暗に迫っていたことが明らかになった。財務省により空前の需要を得た業界がこれを拒むことなどあり得ない。既に一部市場に出回った、新券種対応の自動販売機では二千円札も使用できるようになったが、大方の予想通り、二千円札がその自動販売機に吸い込まれていくことは少ないようだ。

 この他にも、今頃になってデザインや新旧の肖像になった人々の好き嫌いなど論じることに終始しているマスコミもある。新紙幣の登場はもうすぐ。果たして国民はどんな反応を示し、国内経済にどんな影響を及ぼすのだろうか?。

— この話はフィクションです。—

(秀)