第928話 ■締め切りも悪くない

 広く一般的に世の中にはとりあえず、締め切りというのがある。私は平日毎日コラムの締め切りを抱えている。会社からの帰りが遅い日などは食事や入浴を終えて、夜の11時ごろから締め切りまでの60分の戦いが始まる。どうせ趣味なのだから、そんな思いまでしなくても、と思うこともしばしば。執筆回数を減らすと楽になるかな?、とも思う。しかし、これまでペースを守って続けてきたことを放り出すことが気持ち悪くて続けている。このため、仕事が終わった後に突然、「これから飲みに行こうか?」という誘いが最も困る。

 なるほど、締め切りにはいろいろと苦しめられるが、締め切りが存在しないと、お互い困ってしまうこともある。「いつかやろう」と思っていてはなかなか終わらない。仕事の能力というのは技術的な要素とか、交渉術なども確かに重要だろうが、根本は「約束を守ること」に行き着く。いろいろな要素は約束を守るための手段に過ぎない。とりわけ、その約束の中で重要なのは「時間」だと思う。すなわち、いつまでにそれをやるか。この点について曖昧な返事をする人は総じて仕事の進め方が上手くない。逆にできもしない約束をする人は即、信用を失う。

 私達は子供の頃からいろいろと「21世紀は夢の時代」などと聞かされてきた。ロボット、超高層のビル群、空を飛ぶ車(?)。しかし、夢の時代は実現しない夢物語のようだ。せめて、リニアモーターカーぐらい、そろそろ実現してよさそうだが、一向にそのあたりが明らかにならない。私が子供の頃から既にテスト走行がなされていたから、そろそろ30年近くなるのではなかろうか。そして、私達が大人になった頃には時速500キロで走るリニアモーターカーが実現しているであろうことが盛んに紹介されていた。

 いったいこの計画はどうなったんだろう。締め切りはあったのだろうか?。30年だとすると、その当時、この計画に携わっていた人々は既に定年を迎えている頃だろう。むなしいなあ。そんな感じで申し送りされていく間に締め切りも延びてしまうのか?。責任者も定年を迎えるし、人も入れ替わるだろうし。サラリーマンたるものは月末が近づくと殊に締め切りの意識が増してくる。締め切りがあるから達成感もひとしお。そんな緊張感も悪くない。そう思って私は日々コラムを書きつづけている。

(秀)