第2070話 ■江戸は意外と狭い

 時代劇が好きであるが、実際の土地勘が加わると余計に楽しめる。自分の場合は、落語での地理と並行でこの辺りを楽しんでいる。江戸=東京という感覚の人も多いと思うが、江戸は意外と狭い。23区どころではない。位置関係としてはちょっとずれるが、広さとしては山手線一周くらいという感じだ。

 東は隅田川、当時、大川と呼んでいた、そこが境である。「向島」は文字通り、向こうの島。「両国」は武蔵国と下総国の二国の境という意味。新宿は文字通り新しい宿場という意味で、四谷に大木戸があって、そこまでが市中という扱い。品川方面にも第一京浜沿いに高輪大木戸があって、品川は東海道最初の宿場町だった。ちなみに品川宿は品川駅よりもさらに先の方だった。

 文京区、三丁目交差点に「かねやす」という店が今もある。「本郷もかねやすまでは江戸のうち」という川柳に詠まれている。江戸時代は火事が多く、その中でも中心部分は火事に備えて屋根を瓦葺きにすることが義務づけられていて、その境目が本郷のかねやすの所までということで、先ほどの川柳が生まれた。まあ、本当の中心部の境ってことだろう。

 市中のほどんどは武家屋敷で、いわゆる町人が住んでいたのが、日本橋の周囲や木挽町(現在の東銀座)あたりとなる。現在の地価を考えるとなかなかの高級地だ。もちろん、それぞれの自前ではないけど。落語で有名な「目黒のさんま」。目黒区は殿様が鷹狩に行くような野っ原で、山の手と呼ばれるほとんどは農村地帯だった。江戸市中ではない。

 時代劇や落語など、その場所や位置関係が分かるとより楽しめる。地方に暮らしていた時にはあまりにも漠然としていた。東京、あるいはその近郊の人ならではの楽しみ。

(秀)