私が中3のときに、学習指導要項の改定が行われ、その年から男子生徒も家庭科が、女子生徒も技術科が、僅かな時間数ではあるがカリキュラムに組み込まれ、私達は久しぶりの調理実習を体験した。メニューは「チキンライス」。しかし、先生が男子生徒では、ご飯を炒めるのが難しいと判断したのか、時間が掛かり過ぎると判断したのか、鶏肉と野菜は炒めたが、それをご飯に混ぜこみ、ケチャップで色付けをした、まがいもののチキンライスの出来上りとなった。一方その時間、女子生徒達は電気の話を聞いていたらしい。要はオームの法則でタコ足配線はやめようという、計算をやるだけの授業だったらしい。久しぶりの調理実習に嬉々としている男子生徒とつまらない授業にふてくされた女子生徒達の顔が好対象であった。

 中学校の家庭科の教科書を当時見たことがあるが、そこには母親になるための保健体育の延長のような内容が書かれていたのには刺激的で驚いた。これでは同年代の男子がガキに見えるわけだ。浴衣やスモックの製作がその後の生活にどれくらい役に立つのかは疑問である(かなり母親の手を借りているそうだし)が、技術科に比べると家庭科は実用的である。それに対して、技術科の内容は、その後ホワイトカラーのサラリーマンになる人にはほとんど役に立たない。まず最初に製図を習う。「等角投影法」なんて言葉を覚えながら図面を引くのだが、その後も職業で設計をやっている人間はどれぐらいだろうか?。本棚がうまく作れたところで、大工になる人間はどれぐらいだろうか?。百歩譲って、日曜大工マニアはどれぐらいだろう。工業高校に進学するような人には有益だろうが、所詮は中坊(中学生のこと)のレベルでしかない。

 究めつけは「ちりとり」。アルミ板を使った、ちりとりの製作である。各自に50センチ四方程度のアルミの金属板が配られ、書いて、切って、折って、2時間もあれば完成する。みんなが同じ物を作るため、意匠の差や出来上りの優劣などほとんどない。出来上がったちりとりは各自持って帰って良いのだが、それが面倒なのと、ほとんどの家庭が掃除機を使用する時代のため、そうそう、ちりとりの出番などない。結局その様なちりとりは学校に残されたまま、教室の掃除用具入れへと自然と集められていく。2年生の教室の掃除用具入れは毎年この時期を過ぎるとほうきの数を遥かに越えたちりとりであふれていた。