第648話 ■イテテガム

 小学校1年生の夏休みに熊本県荒尾市にある、伯母さんの家に遊びに行った。「イテテガム」(「パンチガム」、「パッチンガム」という場合もあるようだが正式名称は不明)との出会いはこの荒尾市に始まった。最近でも駄菓子屋などで売られている、ガムを引き抜くと、バネ仕掛けでパチンと指が挟まれるいたずら玩具である。当時まだ私の地元には上陸しておらず、そのおもちゃを持っていたのは、そのときに買い求めて持ち帰った私だけだった。

 パッケージはロッテの板ガムをまねしている。一見区別が付かないほど絶妙だったりする。しかし何よりも怪しいのは小学1年のガキがクールミントガムなんぞをズボンのポケットに忍ばせていることである。クールミントガムやグリーンガムは味からして大人のガムである。しかも子供には高い。当時の小学生はシールなどのおまけの付いた子供向けのガムを買うものと決まっていた。また、当たり付きも大事なようその一つである。

 いつも見慣れた1万円札や千円札よりも普段はあまり見かけない五千円札の方が偽札としてはポピュラーなのと同様に、子供には縁遠いとはいえ露出度の高いクールミントガムやグリーンガムではなく、私はオレンジガムをカムフラージュしたものを買った。しかも研究熱心のため、実物のガムを買ってそのパッケージをイテテガムの外装に貼り付けた。これで完璧。イテテガムのそれは見比べて初めて分かるが実物よりも若干色が薄かった。

 最初は次々にいたずらに成功した。クールミントやグリーンだったら、「辛いからいらない」と拒絶されるケースもあっただろうが、オレンジガムであったが功を奏した。しかし夏休み中なので試せる相手は近所の友達しかいない。そのうち、板ガムの両端を摘んでガムを抜き取ろうとするものも現れた。わざとダミーのガムを引っ張ったり。横から見たときにバネの力でガムが浮かんでいるのが変だとバレル場合もあった。ガムを学校に持って行って友達に勧めるわけにもいかない。何よりも一度騙されるとそれっきりというのがこのおもちゃの最大の欠点だった。今ならまた周りの人を騙せそうだが、もちろんやらない。いたずらおもちゃの話はまだ続く。

(秀)