第1010話 ■温泉卓球

 あ~あ、たまには温泉に行きたいなあー。最近、小田急ロマンスカーのCMがテレビで流れていて(多分、関東ローカルだと思うが)、それを見るたびにそう思う。部屋の障子を空けると手前には湖、そして奥には富士山。そこで女性が大きく背伸びをする、そんな内容のCMだ。

 温泉旅館には卓球台がつきものだ。まあ、実際に旅館と呼べるようなところは少なく、和室中心のホテル言うのが正しかろうが、敢えて温泉旅館と言わせて貰おう。部屋を出て大浴場まで向かう途中にひっそりと卓球台が置かれていたりする。ネットが張られておらず、ただ置かれているだけというケースもある。やっている人はいない。確かにこんな場で熱心に卓球をしている姿を見られるのは恥ずかしい気がする。

 ホテルの中にカラオケルームがあったり、ゲームセンターがあったり。それらがないと外へ飲みに出たりなどと、何もここに残って卓球をする気にはならないのはもっともだ。もはや温泉卓球は娯楽が少なかった時代の名残として痛々しい。でもね、そこに卓球台が置いてあることでどこかホッとするんだんなあ。

 さて、ここから先はイメージの話。服装はまず浴衣、袖を捲り上げておく。足元はスリッパ。これで決まり。熱心な方はタオルを鉢巻代わりにどうぞ。ラケットは、もちろん、旅館の受付で借りる。いくら昔、卓球をやっていたからといって、マイラケットなど持ってきてはいけない。旅館で貸してくれるラケットはペンタイプ。シェイクハンドスタイルだと卓球温泉の雰囲気が出ない。どこか時代に置き去りにされた雰囲気とスタイルで楽しむのが宜しかろう。社員旅行が世間的になくなったことが温泉卓球衰退の原因だと思う。

(秀)