第1065話 ■「木綿のハンカチーフ」
何か1曲、泣ける曲を挙げるとすれば、私は迷わず、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」を挙げる。たかがハンカチをハンカチーフと呼ぶことなど、この曲が流行った20数年前にも、もちろんなかった。けどこの曲ではどうしてもハンカチーフでなければならないし、その素材は絹でも化繊でもダメで、「世の中のほとんどのハンカチは木綿だろう?」と突っ込まれようとも、わざわざ「木綿」とことわらなければならない。詩とはそんなもんだと改めて思う。
この曲が流行った当時、姉が買って来たのか、兄が買って来たのか、今となっては当人も覚えてなかろうが、我が家にもこのレコードがあって、何度となく聴いた。資料を調べてみると、昭和50年のことなので、私は小学3年生だったことになる。とにかく、詞が良い。泣ける。松本隆が作詞家として、世に出た曲と今日、伝えられている。この後彼は、松田聖子をはじめ、多くのヒット曲の作詞を手掛けていく。しかし、詩的にはこの曲の詞が最高傑作だと私は思う。ちなみに作曲は筒美京平。
今となっては歌詞と現実とに大きなギャップが存在している。ひょっとしたら、当時でもリアル感はなかったのかもしれない。遠距離恋愛のため、せっせと文通をし、彼は写真やプレゼントを彼女に送る。歌詞はお互いの手紙の文章のような組み立てで進む。半年が過ぎ、やがて1年が経とうという頃か、田舎で待つ彼女に男が別れを告げる。お互い会って話をするでなく、彼女がその理由を問い詰めるでもなく、今ひとつ分かれる真の理由がはっきりしないが、最後に涙を拭くためのハンカチーフを送ってが欲しいと彼女が彼に伝える。曲のテンポは早く、曲調は極めて明るい。太田裕美はちょっと体を揺らしながら歌う。だからこそ、その結末が余計に悲しいのかもしれない。
実は私にも就職直後、遠距離恋愛の経験がある。手紙などは書かず、もっぱら電話であった。寮の公衆電話はいつも混んでいた。今なら携帯電話や電子メールという便利な道具もあるから、またその当時とも遠距離恋愛の様子は違うことだろう。結局、私の遠距離恋愛は5ヶ月も続かなかった。だから、この曲を聴くと泣けるわけではないが。この話の続きはいずれかの機会にでも。
(秀)
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