第1101話 ■近未来事件簿・年金の網

 年金への加入対象年齢が18歳からに引き下げられて、まず行われたことは各地方自治体が成人の日に主催する新成人を祝う行事の参加者を年金加入者に限定する動きだった。年金の支払いが未納だったり、支払いが滞っている新成人に行事への招待状を発行しないという動きである。いろいろと批判はあるものの、不真面目な参加者の排除にもなり、成人式当日は各地で穏やかな式典となったことは事実である。

 そして、国公立大学の学生にも年金への加入を強制とし、未加入者や長期滞納者には除籍をも文部科学省の判断で可能となった。あわせて、センター試験受験者もその願書に年金番号を記載させるようになった。これは強制ではないが、受験生の間では「この年金番号の記載も採点の対象になっている」、「年金番号を書かないと足切りにあう」といった噂が駆け巡っている。はたまた、一部のWebサイトでは年金番号の各桁の意味合いや、それらしい架空の番号を生成する方法まで紹介されていた。

 確かにこれらの動きは陰湿ではあったが、若年層を中心に年金の加入と納付は若干ながら好転した。現に都市部のサラリーマン層にはこの政策は支持されている。かつての受益者負担という言葉が転じて、「負担者受益」という言葉が世にまかり通るようになった。ハローワークでは失業保険と年金の加入状況で職員の対応が変わるし、高速道路の無料化は年金加入者に限定される見通しだ。

 そしてついに行政サービスの最たる部分にもこの政策は展開されようとしている。その一つはパスポートの申請書に年金番号の記入を義務付けるようにすること。そして、年金の未納者や滞納者へ運転免許書を交付しない道路交通法の改正案が次の通常国会に提出されようとしている。

(秀)