第1102話 ■甘口?、辛口?

 ジュースの類の瓶がペットボトルになってしまってから随分久しいような気がする。だからそんなことなど忘れていた。今時分、ビン入りのコーラを、しかも栓抜きを使用する従来のタイプを望むならば、食堂などにその場を求めなければならない。

 初詣と言うわけではないが、正月3日目に柴又帝釈天に出掛け、参道の団子屋の二階で昼食を取ることにした。正月だからということで、子供達にはジュースをつけてやった。運ばれて来たのは懐かしい、レギュラーサイズのガラス瓶のコーラだった。瓶に印刷されているロゴデザインは従来のものとはちょっと違う。新しいもののようだ。けど、ガラス瓶であることはうれしい。

 「あっ、これは甘口だ」。長男がそんなことを言った。さも得意そうに言う。「ここの窪みが丸いのが甘口で、四角いのは辛口」。瓶の下の方にほんのわずか、窪みがついている。確かに30年程前に私もこの話は聞いて知っていた。しかし、瓶も見なくなり、いつの間にか思い起こすことなく、忘れてしまっていた。コーラの瓶などまず見ることのない、息子が何故こんな話を知っているのだろう?。

 まことしやかに、この噂は私も含めて当時の子ども達に信じられていた。いや、信じるかどうか、あるいはそもそもの真偽はさておき、知っていることが自慢で、それを次の者に伝える優越感というのが僕らを支配していたのかもしれない。今風に言えば「トリビア」である。

 ところが本当のところではコーラに甘口や辛口は存在しておらず、この噂はがせネタであった。テレビだか本だかでこのことを私は知らされたわけだが、とりわけショックというほどのことはなかった。はなから信じていなかったのかもしれない。それにしても嘘であったこの噂が30年の年月(それ以上昔から存在していたかもしれないが)を経ても、今も小学生の間でまことしやかに生き続けている事に驚いた。

(秀)