第1109話 ■子供映画の記憶

 床屋の入り口の横はガラス貼りになっていて、そこにはいつも店の中から映画のポスターが貼られていた。散髪が終わってお金を払うレジの横には映画の割引券が束で置いてあった。いつもは関係ない映画であるが夏冬の2回は子供向けの映画が掛かる。たまたまそのタイミングで散髪に行くと店では割引券がもらえた。店も面倒だから面白がって何枚もくれた。

 同様のことは銭湯でも起きる。銭湯では脱衣所に、しかも脱衣かごを手に取って丁度目線を上げたところに映画のポスターが貼られていた。子供ものの映画に気が付くと、帰りに番台で割引券をもらって帰った。既に床屋でもらった割引券でも枚数がたまるのがうれしかったので、躊躇なくもらう。

 家に帰ってからは「連れてって、連れてって」とその割引券を見せて親にねだる。この手で結構小さいときからゴジラ作品をいろいろと見た。わざわざ母親は仕事を休んでまで私を映画館に連れて行ってくれた。感謝、感謝。そして小学校の中学年くらいになると友達数人と一緒に自分たちだけで映画を見に行くようになった。

 当時の子供向けの映画は東映の「まんがまつり」と東宝のゴジラシリーズが双璧だった。とりわけ東映はテレビ番組を中心に本数が多いのが特徴だった。そして次第にテレビ番組の劇場特別版を作るようになった。「グレートマジンガー対ゲッターロボ」や「5人のライダー対キングダーク」など。蛇足ながら付け加えると、前者は別にヒーロー同士が戦うだけでなく、ともに協力して豪華に悪と戦う話であった。

 しかし、それ以前、「まんがまつり」に行くようになるまではゴジラシリーズ一辺倒だった。東宝と東映を比較してそうしていたわけでなく、床屋や銭湯で私がもらってくる割引券が東宝のチケットだったからだと思う。ストーリーなんか分かるはずもないから、映画が始まってゴジラが出てくるまでの数十分がとても退屈だったなあ。

(秀)