第596話 ■不幸の尺八

 ビートたけしのオールナイトニッポンに「不幸の尺八コーナー」というのがあった。ことの起こりは、番組終了後に反省会と称して、たけし達がが飲みに行った店に流し風のオヤジが現れ、曲を任せると、ハーモニカで「やしの実」を吹いた。聞いてる方は悪酔いして、具合悪くなったりと、それが頭に来たので、尺八で「やしの実」をマスターして仕返しをしてやろうということであった。

 次の週の放送はたけしが吹く尺八の音で始まった。しかし、うまく吹けない。結局諦めてしまうが、買った尺八がもったいないので、はがきをくれる常連リスナー(当時はまだ「はがき職人」という言葉はなかった)にこの尺八を送りつけ、翌週までに「やしの実」を吹いて録音したテープと尺八、それに証拠写真を添えて局に送り返すというコーナーが誕生した。不幸の手紙のように尺八が巡回して回るので、「不幸の尺八コーナー」と名付けられた。

 ところが翌週、最初に尺八を送りつけられた、常連リスナーが送り返してこない。そこで、督促の意味を込めたラジオドラマが制作され、オンエアー。彼が2週すっぽかして、このラジオドラマもレギュラーコーナーとなってしまった。また、彼が送って来た証拠写真に写っていたのが別人だったことをきっかけに、このリスナーのゴーストライター説、3人いる説など話題が広がっていった。

 結局、ちゃんと1週間で送り返してきたのはただ一人。誰も満足に吹くことができず、5人目のリスナーがとうとう尺八を送り返さずに、「お礼状」を送って私物化し、このコーナーは終わってしまった。たけしのオールナイトニッポン、放送開始初期の出来事である。当時私は中3。

(秀)