第642話 ■工藤俊作

 今月は彼の13回忌とあって、スカパーでも特集が組まれていたりした。いくつかの映画の中での彼の姿、そしてドラマ「探偵物語」で活躍する松田優作、いや工藤俊作の姿を久しぶりに見た。この番組が放送されていたときから既に22年の月日が流れた。当時私は中学生。原付はまだノーヘルで良かったし、彼のベスパの影響で、(ベスパを買うほどお金はない大多数の人向けの)国産のスクーターブームも、この直後に起きた。

 毎週日曜日の放送は欠かさずに見ていたし、再放送でも何度か見ていたはずにも関わらず、今回放送された1話と5話でさえも、新しく発見することがあった。使用されている車のスポンサーがマツダなのである。警察車両などのほとんどがルーチェ、そのほかはカペラであった。松田だからマツダと非常に単純な理屈であるが、これまでは見落としていた。ドラマの方の作りも非常に手間暇掛けて作っているのが改めて感じられる。

 ジーパン刑事や、ハードボイルド映画に出演し、そしてこの探偵物語。それぞれの人に彼のイメージの役どころがあるだろうが、彼のキャラクターが最も生きた作品はやはりこのドラマ「探偵物語」だったと思う。寡黙な役よりも喋らした方が彼のキャラクターが立つ。そして、とぼけたところも含めて、工藤ちゃんの表情での演技は秀逸であった。最終的に彼はハリウッド進出を夢見、「ブラック・レイン」でその足がかりを現実のものとした直後に病に倒れ、この世を去った。もし存命だったら、その後も活躍したことだろう。しかし、私としてはハリウッドで活躍する彼の姿よりも、工藤俊作としてしがない探偵を演じている彼の姿を見続けていたかった。

(秀)