第883話 ■席替え

 「席替えを提案します」。その途端、教室内が一斉にざわめく。学級委員の「他に意見のある人はいませんか?」という問いに、予定通り、冒頭の声が挙がった。形式的には動議であるが、それは衆議院本会議の審議打ち切りの動議のように、最初っから仕組まれている。先生が手を叩きながら、生徒を落ち着かせ、「はい、はい、静かに。分かりました。席替えをしましょう」と言うと、ワーッと歓喜の声が挙がり、それを最後に子供達は多少の落ち着きを取り戻すが、お尻の方ではそわそわ、そわそわ。まるでぎょうちゅうでも飼っているかのように。

 私が小学校低学年のときに使用していた机は木製の二人掛けのものだった。肥後の守や彫刻等で傷が付けられ、その程度のひどいものは、天板のベニヤ板を貼り付けて補修されている。椅子も木製で前後にゆすると、ギシギシと音を立てるものもあった。この二人掛けの机には目に見えない境界線があり(実際に線を書いたり、彫ったりする者もいたが)、決して仲が悪いわけではないが、この境界線からの侵犯にはお互いピリピリしている。「はみ出したら、俺のもんだからな!」と、消しゴムを取り上げる一方で、いざはみ出そうとも、「くうちゅーう(空中)、くうちゅーう」なんて抵抗しあった。

 やがて高学年に移ると、校舎も鉄筋になり(別に立て替えたわけではなく、入学した当時から鉄筋校舎はあったが、それは上級生の教室で、下級生は木造校舎のままだった)机は一人掛けの化粧天板のスチール机になったが、中学校では一人掛けながら、また木製机になった。おまけに校舎も木造で市内一のボロだった。余談だが、その中学校の音楽室は二人掛けの机で、椅子は二人掛けのベンチだった。それに出席番号順に男女並んで座った。

 さて、話を元に戻そう。くじで席が決まると、いよいよ席の移動である。一人机の場合は机ごと持っていく場合もあり、机の中身だけを入れ替える場合もある。二人掛けの場合は否応なく、中身だけの移動となる。中身を取り出すと、中から給食のパンの残りカスが出てくる輩がいる。くしゃくしゃになったプリントも。しかも藁半紙の。

 翌朝学校に着いて、後から登校してくる友達を眺めてみる。間違えて元の席に座る者が数名は必ずいた。悪巧みをして、わざと元の席に座っておいて、教室に入ってきた友達が間違えて元の席に座りやしないか、トラップを掛けたりもしたもんだ。フィンガー5の「学園天国」が流行っていたのは、丁度この頃、私が小学校低学年のときだった。

(秀)