第944話 ■歯磨き指導

 今年も例年の通り、社内健康診断がやってきた。35歳になってからは毎年胃の直接撮影が行われる。バリウムを飲んでのあれである。これ以外にも、25歳と30歳の節目の年には同様の検査が行われていたので、同僚達と「今年はバリウムあるの?」なんてお互い聞いたりしていたが、揃って年を取って、そんな会話も無用になった。私達はこのバリウムありの検査フルパッケージを社内用語で「バリューパック」と呼んでいる。何だか、ケーシー高峰みたいだなー。「グラッチェ」。

 苦痛なバリウム(実際にはバリウムよりも発泡剤の方が苦痛)にも耐え忍び、約一時間掛けての検査の最終項目は歯科検診である。これまでの年は必須だった歯科検診が、今年からは希望者のみの任意診断に変わっていた。「行くしかあるまい。コラムのネタが転がっているかもしれない」。かなり不純な動機だ。任意性になったためか、会場は空いていて待ち時間なしで見てもらえた。

 一通り、歯科医による検診が済んだ後は、場所を移動しての歯茎の検査というのが行われた。今度は歯科医ではなく、歯科助手あるいは歯科衛生士といわれる人のようだ。そこで案の定、歯磨き指導というのを受けた。自慢じゃないが、この歯磨き指導という奴をこの検診と定期的に歯医者で検診を受けているせいで、ここ数年は年に2度ほど受けている。ところが有無も言わさず、始まってしまう。私の思い過ごしかもしれないが、この歯科助手あるいは歯科衛生士という人々は相手の口を開けさしたからには、「磨き残しがある」とか、「歯茎が弱っている」などと必ず何かの理由を付けて、歯磨き指導をすることをモットーにしているのではなかろうか?。

 一人当り、年間千人ぐらいに歯磨き指導をしているのではなかろうか?。口を開けたまま、言われるがまま。小さい手鏡を持たされ、歯ブラシを当てられる。説明に返事をしようにも、歯にブラシが当たったまま、上手く言葉が出ない。だらしなく、よだれ(唾液か?)だけ出てくる。

 そのとき使用した歯ブラシはお土産にくれる。いつも歯磨き指導を受けた直後は言われたことをこの歯ブラシで実践してみる。前歯は根元に磨き残しが出るので、ブラシを縦にして上下にブラッシングするのが良いらしい。寝る前に洗面台でやってみる。洗面台の鏡に映ったその自分の姿はとても間抜けだ。朝からこうだときっと一日萎えてしまうことだろう。

(秀)