第985話 ■ラスク

 長女が春から中学に進学して、妻はその弁当作りに毎朝大忙しである。とりあえず、来週からは希望により、学校で給食(しかも二者択一でメニューが選べる)を申し込むこともできるので、毎日弁当を作る必要はなくなりそうだが、数年ぶりの弁当作りの毎日はやはり大変なようだ。そんな姿を見て、母の愛情を思い起こした。私はその中学生当時、週に3回弁当を作ってもらい、残り2日は学校でパンを買って食べていた。

 学校では「厚生委員」という係が毎朝、クラスメイトからのパンの注文を受け付け、一時限目終了後の休み時間までにオーダーに行く。ほぼ、朝のホームルームが終わって、一時限目までの間に注文は行われる。出入りのパン屋は基本的に一週間ごとに2社が交代でやってきていた。もちろんのこと、扱っている商品は微妙に違っている。ただ、どっちのパン屋もスーパーなどの他の流通経路ではその姿を見ることのないマイナーはブランドだった。毎回パンの日は300円を貰って家を出、全てを使い切ることなく、幾らかの金を残して小遣いにしていた。

 さて、一年のとき「ラスク」が大流行したことがある。50円でパンというよりもお菓子感覚で買っていた。友達に少しずつ分けてもらって、「明日、自分も買おう」とみんなその気になった。翌日、我がクラスではラスクの注文が殺到し、誰もが楽しみにラスクの到着を待っていたが、あまりにもの数に対応しきれず、別のチョコレートパンが代替品として納品された。クラス中、不満のオンパレード。数日後のホームルームで厚生委員は「注文したパンが別のパンに替わっていても文句を言わないで下さい」と涙ながらに訴えていた。

(秀)