第990話 ■貸し本屋

 実家のすぐ近くに一軒の小さな本屋があって、そこでは文房具なども売っていたが、店のメインはそれら以上に貸し本業で、店のエリアもそちらに多く割いていた。小学生の頃、この店でよく漫画の本(コミックス)などを借りて読んでいた。

 当時世情に疎かった私はコミック本になった漫画がそれ以前に週刊漫画雑誌で連載されていたことなど知らなかった。また、当時の私にとって、本屋と言えばこの店が全てであり、この店ではコミック本を売っていなかったので、コミック本が街の大きな本屋では店に並んでいるのを見てたいそう驚いた。まさかこんな感じで売られているとは思っていなかった。

 腰の曲がったおばあちゃんが店番をしていた。コミック本一泊で40円(後に50円)。駄菓子屋に行くか、本屋に行くか、限られた小遣いの使い方を悩み、そして、結構多くの漫画を読んだ。とりわけ、新刊を一番最初に借りるのが何とも気持ち良かった。今それらの本はほとんどが廃刊で、たまに古本屋で見かけると懐かしくて手を出してしまうが、驚くような値段が付いていたり、手に触れることができないようなところに隔てて飾られていたりする。揃い巻の場合は特に。

 やがて少年週刊漫画雑誌に興味が移り、それからはそっちをこの店で借りるようになった。当時の好みは少年チャンピオンだった。がきデカ、ドカベン、マカロニほうれん荘、ブラックジャック、750ライダー、らんぽう。当時私が漫画好きの少年であったのは、この貸し本屋のおかげだった。買うよりも安く、置き場所にも困らない、非常に合理的なシステムだったと思う。

(秀)