第246話 ■ハトヤへの思い

 私の好きな劇団に「ラッパ屋」というのがあるが、4年ぐらい前のこの劇団の公演で「裸天国」というのがあった。温泉を舞台にした話である。職場で秘密に付き合っていた二人が会社を休んで温泉旅行に出かけた。会社のメンバーには内緒のはずなのに、旅館で上司や同僚と鉢合わせになってしまう。彼女は彼氏に「いったいこの旅館、どこで探したのよ?」と聞いて、ここが会社の保養所であることに初めて気が付く。「課長達はどうしてここに?」と彼氏が聞くと、「君がいないと仕事にならないから、みんなで仕事休んでここに来たんだよ」と課長が答える。同僚も課長につられて来たらしい。

 関東近郊にもいろいろと温泉があるが、仕事の泊り込みの会議などで利用することがある。我が社ではこれを「合宿」と呼んでいる。会社の引力を離れ、寝食をともにし知恵を絞るのである。カンヅメのようなものだ。場所は伊東が多い。熱海ではなく伊東である理由は、伊東に会社で利用できる施設があるからに他ならない。すでに踊り子号に乗り込み、東京駅を出発したときには遠足気分の始まりである。さすがに酒盛りが始まることはないが。

 伊東駅が近づくと進行方向左側に海が広がり、やがてハトヤホテルが見えて来る。隣にあるのは歌にも出て来るサンハトヤである。あの歌はもう30年近く流れている。九州でもあのCMは流れていたし、札幌でも流れていたらしい。「三段逆スライド方式」も「海底温泉」もお馴染みである。かと言って、我々の宿泊先はハトヤでもサンハトヤでもない。

 ようやくその日に予定していた仕事が片付いた。予定通りに行ったときは良いが、時間がおしてしまうと、旅館の都合のため途中で夕食を済ませ、会議が継続されることもある。温泉が利用出来る時間が指定されていて、せかされるように温泉に浸かることもある。「どうせこの辺の温泉はどこも同じお湯だろう」と、思ってはみても、遠くに見える「ハトヤ」の赤いネオンに思いを馳せてしまう。

 もちろん、このコラムはいつものように通勤帰りの電車の中で書いている。伊東に来ている訳ではない。今日も自宅の風呂で4126、4126(ヨイフロ)。明日は草津の温泉の素にしようかな?。

(秀)