第802話 ■再発見「東京物語」(3)

 原 節子は確かに美しい。美人だ。この映画で彼女が演じている紀子というのは映画の中で極めて重要な地位を占めている。いわゆる貞淑な戦争未亡人である。しかし、私がこの映画で彼女以上に重要な役割を果たしていたのは杉村春子が演じた長女の「しず」だと、今回思い至った。実に嫌な娘役である。嫁の紀子が美人で心も綺麗な人として描かれているのと対照的に、見ていて癪にさわり、憎らしく思えるほど見事なまでの悪役に徹している。この「しず」がいるからこそ、紀子の存在がより引き立つようになっている。偉いぞ、杉村春子。

 ようやく先日テレビで放送されたリメイク・ドラマ版「東京物語」を見た。オリジナルを意識してなのか、そのままの台詞が数多く登場してくる。しかし、やはり空々しく、言葉が浮いてしまっている。おまけに説明シーンが多い。今風のドラマでしかない。

 そしてオリジナルにはないシーンとして、母親が子供達のために保管していた思い出の品が彼女の死後発見されるシーンがある。子供のときに書いた絵や習字などに母がいろいろとコメントが書き込まれたものが、子供別に箱に詰められていた。そしてそのコメントが母(八千草薫)の声で読み上げられる。子供達はこれを見ながら号泣する。紀子(松たか子)も泣く。これはあまりも直接的で卑怯な手段だと私は思う。役者を泣かせるのは最も簡単な表現方法でしかない。しかも人の生き死にといった部分でこの方法を使用するのはやっぱり卑怯だなあ。

 やはり最も気になったのは配役。宇津井健と八千草薫が演じる老夫婦は綺麗過ぎる。尾道(の、しかも田舎の古ぼけた家)に八千草薫は不似合いだろう。宇津井健もしかり。大滝秀治、赤木春江あたりのペアがよりリアルだったような気がする。「(それでは)華がない!?」。確かに私もそう思うけど。

<このシリーズ・完>

(秀)