「夜中に爪を切ってはいけない」とかつて周りの年寄りたちに言われていた。夜中に爪を切ると、「親の死に目に会えない」などの、迷信のような言い伝えもあるようだが、最近になって、迷信や単なる言い伝えはさておき、夜中に爪を切るべきでない本当の理由がそれとなくわかってきた。昔は夜間の照明器具の明るさも十分ではなかったために、必要以上に深爪をしたりするリスクが伴うから、という理由をかつて聞いたことがあった。子供の頃に聞いたはずだが、既に明るい電気の下での生活に馴染んでいたため、当時はこの理由が全くピンと来なかった。

 しかしここ数年、自分もかなり老眼が進んできている。薬のパッケージに書かれている「用法・用量」の文字が見えづらい。また、暗いところでは、余計に文字などが見えづらく、照明が暗い飲み屋での名刺のやり取りとなると、最も大きな相手の名前の部分くらいしか視認できない。そのような明るさの場所では、爪を切ろうにもよく見えない。昔の人は老眼となって、暗い照明の中、とても爪を切るなんて危なっかしいから、「夜中に爪を切ってはいけない」と言い伝えて来たに違いない。

 小学生当時、毎週の衛生検査が木曜日だったから、その前夜に母親に爪を切ってもらっていたことを思い出す。当時の母親は今の自分よりも随分若かったから、まだ老眼は大丈夫だったはず。親から貰った体の所々に思い出を感じる。

(秀)