第1000話 ■4年間最大の出来事

 今日で4年間に及ぶこのコラムの区切りをつけるにあたり、全く私的なことで申し訳ないが、この4年間の最大の変化について書くことをお許し願いたい。この4年間での私にとっての最大の出来事は家族が一人増えたことだ。これまでコラムで書くことなく、その中では私は二人の子持ちの四人家族と言うことにしてきたが、実は2歳になる次女がいる。

 西暦2000年が明けて間もなくのことだったと思う。妻と二人で徒歩1分のコンビにまで夜出かけた。角を曲がってコンビニの駐車場が見え始めた矢先、妻が悲鳴を上げるや、私は前方数十メートルの距離を久しぶりに全力疾走で駆け出していた。コンビニの前には駐車場があり、その駐車場は県道に面している。夜間は車が少ないこともあり、結構車がスピードを上げて通り過ぎる。ちょうどカーブがあり見通しが悪く、一方は下り坂ときている(逆方向から見ればもちろん上り坂だが)。

 私達二人は前方に約1歳半の男の子を発見した。どうやら店から出て、駐車場から道路の方にヨチヨチ歩いていた。道路まであと3メートルといったところ、駆け出して数秒後にその子にたどり着くと、私はその子を抱き上げた。とにかく間に合って良かった。「ああ、軽いなあ。こんな小さな子抱っこしたのはいつ以来だろうか?」と思っている間に妻が私に追いついてきた。妻は驚きのあまり、駆け出すことなどできず、声だけ先に出たと言う。

 私がその子を抱いたままコンビニの中に入ると、妻は「この子のお母さんいませんか?」と母親を探し始めた。その声を聞いて、「化粧室」へ繋がる店の奥の扉が開き、一人の女性が飛び出してきた。その女性は事態が分かっていなかったようだが、私の手から子供を受け取りながら、「駐車場に出て、もう少しで道路のところまで行ってましたよ」と聞かされて、驚いて恐縮していた。何度か礼を言った後、それからばつが悪かったんだろう。分かるはずもない子供を相手に「ダメじゃない、外に出て行っちゃ」と母親はその子供をしかり出した。

 その母親から離れて、妻は「悪いのはあんただからね。子供を置いてトイレに行くなんて」と彼女に毒づいていた。それよりも私は良いことをしたことの満足感と久しぶりに小さい子を抱き上げたことでうれしかった。そしてそのことを妻に話した。「あんな軽いんだ。久しぶりにあんな小さい子抱っこしたよ」。妻が妊娠したのはそれからしばらく後のことだった。そしてその年の年末、押し迫った日に、ミレニアムベイビーとして我が次女は誕生した。この子は私が良いことをしたご褒美に授かった子供だと思っている。

(秀)