第1005話 ■てもみん

 会社の帰りに「てもみん」に行った。短時間安価を売りにしているマッサージサービスだ。会社帰りにジョッキを傾けながら、連れが「今日、飲みの誘いがなかったら、マッサージに寄って帰ろうかと思っていた」と言う。別に私は飲みたかったわけではなく、昼間に買った雑誌の餃子特集が気になって、餃子が食べたくなっただけに過ぎない。ビールはそのオマケ。私のは小ジョッキだし。

 「ならば」、と出てきた餃子と炒飯をさっそく平らげ、バーミヤンを後にした。目指す「てもみん」はそこから徒歩2分。私には初めての「てもみん」体験である。料金は10分千円。短時間は椅子での肩、首。長時間となるとベッドでの全身コースというのもある。わずかのビールでもすぐ赤くなってしまう私の顔を見て、店員が「お酒を飲んでらっしゃる方は…」と言う。「ちょっとだけですから」と何とかごねる。本当にそうだし。「マッサージをすると酔いが回りやすく、気分が悪くなる方がいらっしゃいますので…」と言う。それでも同じ台詞で再びごねた。

 10分ぐらいの待ち時間の後、いよいよ私のマッサージの番が回ってきた。変な前伏せの椅子に座らされる。トイレの便座のような形をしたクッションに顔をうずめて、手は前の方に載せる台がある。とりあえずこの姿勢だから良いが、これがもし後ろ手に縛られていたとすれば、これは拷問椅子だ。そんな不格好の姿で多少の羞恥を感じながらも、やがてだんだん気持ち良くなってくる。

 普通、我々が他人の後ろに回りこみ、肩を揉むときは両方の手で、相手の両肩を同時に揉むものだ。しかし、ここでのマッサージは片手で片肩、片首ずつである。結果、ここでの10分は両手で揉む5分でしかない。いわゆる、上げ底だな。損した気分。肩を揉まれながら「このぐらいの強さで良いですか?」と聞かれて、それに応じた。その時はそれで良かった。しかし指が首筋に移るにつれて、痛くなってきた。力を入れているわけでもなさそうで、きっとツボに入っているのだろう。相当凝っている証拠かもしれないと思った。「痛い~!」と声を挙げるわけにもいかず、耐える。やはり拷問椅子か?。

 痛気持ち良いまま、あっという間に10分間は終了した。もう少しで眠りそうになり、マッサージ終了後にはそれまでの肩の張りも首の痛みも取れ、満足。マッサージの終わった我々二人は便座のようなクッションに伏せた顔に残ったクッションの跡をお互い笑いあった。翌日、「揉み返し」に悩まされるとは思いもせずに。

(秀)