第275話 ■噴水ジュース

 記憶をたどると、おそらく昭和40年代の中頃のことだろう。スーパーの入り口の横にジュースの自動販売機が設置されていた。扱っている品物はオレンジジュースで、今で言えばバヤリースやなっちゃんのオレンジ味のような味だった。しかし、果汁はおそらく入っていなかったことだろう。もう少しこの自販機の特徴を語るとすると、ジュースはコップ売りで、お代は10円。その10円を投入口に入れると、商品選択のボタンなどなく、オレンジジュースだけが出て来る。その通り、出て来るのはジュースだけで、コップ売りであるが紙コップは出て来ない。ジュースが出て来る横のコップ入れの下の方からコップを抜き取って、ジュースが落ちて来るところにこの紙コップをセットしてから10円を入れなければならない。受け付けるコインも10円玉だけだったと思う。

 そして何よりも子供達の欲望を刺激するのは、この自販機のてっぺんに噴水が付いていて、中ではオレンジジュースが吹き出しているからだ。まさにこの自動販売機は一世を風靡し、全国各地に配置されていたらしい。手元の資料によると、この機械は「オアシス」と名称で、星崎電機という会社が昭和32年から製造していたらしい。ひょっとしたら、いくつかの偽物も出まわっていたかもしれない。このオアシスが国産のジュース自販機の魁かと思ったが、明治の末頃には浅草などに「果実水自動販売機」なるものが設置されていたらしい。こちらは紙コップではなく金属のコップで、「ゆすぎみず」で洗ってこれを使い回し、コップは盗難防止ということで、機械(木製だけど)に鎖で繋がれていたそうだ。ちなみに出て来るのはりんご水か、みかん水で一銭だったらしい。

 オアシスからのその後、やがて街角に缶売りのジュースの自動販売機が増えていったのは、衆知の通りであるが、しばらくは、びん売りの自動販売機も多かった。お金を入れて好みのジュースを1本抜き取るタイプの機械で、一度に2本抜けないかとやってみたことはないだろうか?。私はある。それに、スーパーカーが印刷されたコカコーラの王冠が欲しくて、自販機などの栓抜き部分の王冠受けを取り外し、王冠を失敬したことはないだろうか?。私はある。栓抜きの王冠受けの部分が外からはずせないタイプの場合は、糸を付けた磁石を垂らして王冠を取るらしい。ただし、これはやっていない。